BF052 『創造的福祉社会 ―「成長」後の社会構造と人間・地域・価値』

 著者の本は新書が多くて入手しやすいが、いつも、とても難しい。
 本書でもまた、「成長に依存しない『定常型社会』ともいうべき社会、『脱成長』型の社会モデル」が必要と提起する。
 高度経済成長を続けた日本はもうなくて、「定常型社会」で社会福祉制度を考える必要があるという主張には単純に同意する。
 戦後日本の分析では、「農村から都市に移った人々は、カイシャと核家族という”都市の中の農村(ムラ社会)”を作っていた。そこではカイシャや家族といったものが”閉じた集団”になり、それを超えたつながりはきわめて希薄」とし、現在は「日本の多くの都市において、増税などの『負担増』の議論を当初から避けて、既存の税収の枠内で物事を進めるという発想が強く、結果的に福祉や医療などの公的サービス削減の方向に単純に向かう傾向」があると危惧する。
 分析に教えられることは多いが、「すでに『独立した個人』」である私たちは、「倫理の外部化」ひいては「地域倫理」から、「(存在そのものの)価値」を考える必要があるという提案には、抽象度の高さの前に途方に暮れる。
 興味を引いたのは「格差がより大きいのは資産あるいは『ストック』面においての格差なのである」という指摘。国民年金については「女性の平均受給額は4万円代で、それより低い層も多く存在する。実際、日本では65歳以上の女性の『貧困率』が約2割で、単身者では52%に上るという事実が2009年の内閣府の集計で示された」とも報告する。
 「ケアという『労働集約的』な分野に資産配分していくことこそが、『経済』にとってもプラスになるのである」という主張や、「ウェルフェアとは、もとも経済的な概念ではなく、満足すべき生活状態を表す心理的な概念である」といった引用について詳しく知りたい人はご一読を。

(広井良典著/ちくま新書/903円)


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