甘酸っぱい痛み
舞台はレバノン共和国の首都・ベイルートのある小さなエステサロン。
20代から80代までの女性5人の恋愛、結婚、セックス、不倫、老いという世代バラエティに富む悩みと喜びを描いた作品。
レバノンってどの辺だっけ?と思う人もいるかも知れない。
イスラエルの北部に位置し、国土は岐阜県くらい。
ベイルートはかつて、「中東のパリ」と謳われた。
しかし、1975~1991年の内戦で街の半分以上が崩壊。
復興途上の2006年、イスラエルが侵攻し、再び空爆にさらされた。
だが、映画は戦争を一切、語らない。
若きオーナーで、妻子持ちと恋愛中のラヤール(ナディーン・ラバキー)。
結婚を目前に控える美容師のニスリン(ヤスミーン・アル=マスリー)。
シャンプー担当でボーイッシュ、どちらかといえば女性に関心を抱くリマ(ジョアンナ・ムカルゼル)。
常連客で、若く見られることに情熱を注ぐジャマル(ジゼル・アウワード)。
サロンの向かいで洋裁店を営む65歳のローズ(シハーム・ハッダード)。
物語は恋愛シーズン真っ盛りのエステサロン・メンバー3人を中心に進むが、
今回はローズとその姉・リリーに注目。
80代とおぼしきリリーは、フランス人将校と恋に落ちたが、
毎日送られてきたラブレターを家族に隠されていた悲しい青春がある。
老いてもなお、手紙を探すリリーは、街中の紙を拾って歩いている。
ローズはそんな姉の世話に疲れていた。
ある日、スーツを直しに訪れた老紳士とローズは惹かれあう。
ぎこちない初老の恋は、ローズをはじめてエステサロンの椅子に座らせる。
だが、デートにときめくローズに、
リリーは思いつく限りの悪口雑言をあびせる。
涙をこぼしながら化粧を落とすローズの姿に、
ユニバーサルな「家族の呪縛」を実感する。
とはいえ、監督・脚本・主役をこなしたナディーン・ラバキーの美貌と才能を充分に楽しめる。
ちなみに「キャラメル」は砂糖に水とレモンを加え、ペースト状に煮詰めたもので、中東では広く女性の脱毛処理に使われるとのこと。
甘酸っぱく、痛い作品でもある。
(ナディーン・ラバキー監督/2009年/レバノン・フランス/96分)
