結晶する知性
舞台は北にロシア、南にトルコ、アルメニア、
アゼルバイジャンと隣接するグルジア。
ワインがおいしく、長寿で有名だが、
最近ではカスピ海ヨーグルトだろうか。
首都・トビリシに暮らすエカ(エステール・ゴランタン)は、
娘のマリーナ(ニノ・ホマスリゼ)、
孫のアダ(ディナーラ・ドルカーロワ)と女系3世代でつましく暮らしている。
エカの楽しみは、フランスの建設現場に出稼ぎに行った
息子・オタールからの手紙で、いつもアダが読みあげる。
中年のマリーナはアフガニスタン戦争で夫を失い、
母と娘にはさまれ、いつもイライラしている。
ある日、エカが出かけている間に、オタールの事故死が知らされる。
マリーナとアダは高齢のエカが悲しむのを心配して、
オタールの死を隠し、嘘の手紙を書き続けた。
「どうもあやしい…」。
エカは大切にしていた革表紙のフランス文学全集を売り払い、
3人分のパリ行き航空券を買う。
息子と会いたい一心の母親に根負けしたマリーナは、しぶしぶ同意する。
一方、フランス語が得意な若いアダは、期待に胸をはずませる。
そして、たどりついたパリで3人は…。
グルジアは古くから多様な民族が往来し、
他民族支配を長く受けながらもキリスト教をはじめ
伝統文化を守り通してきた国で、
歴史同様、映画出演者もバラエティに富む。
エカを演じたエステール・ゴランタンはベラルーシ生まれで、
なんと85歳で女優デビュー。本作を演じた時は89歳だ。
アダ役のディナーラ・ドルカーロワはロシア生まれで、
凍てつく極東が舞台の『動くな、死ね、甦れ!』
(ヴィータリー・カネフスキー監督/1989年)の
賢くしたたかな少女役が印象に残っている。
監督はフランス人で、グルジア人はマリーナ役のニノ・ホマスリゼのみ。
1991年の独立後もグルジアの政情は安定しない。
しかし、歴史的、地理的な背景を知らなくても、
帝政ロシア末期、ソビエト連邦時代をくぐり抜けてきたエカのタフさと愛らしさ、
ラストの娘と孫娘への「嘘返し」も心に染み入る作品。
(ジュリー・ベルトゥチェリ監督/2003年/フランス=グルジア/102分)
