CF026 『やさしい嘘』 Depuis qu`Otar est parti…

結晶する知性

舞台は北にロシア、南にトルコ、アルメニア、

アゼルバイジャンと隣接するグルジア。
ワインがおいしく、長寿で有名だが、
最近ではカスピ海ヨーグルトだろうか。

首都・トビリシに暮らすエカ(エステール・ゴランタン)は、
娘のマリーナ(ニノ・ホマスリゼ)、
孫のアダ(ディナーラ・ドルカーロワ)と女系3世代でつましく暮らしている。

エカの楽しみは、フランスの建設現場に出稼ぎに行った
息子・オタールからの手紙で、いつもアダが読みあげる。
中年のマリーナはアフガニスタン戦争で夫を失い、
母と娘にはさまれ、いつもイライラしている。

ある日、エカが出かけている間に、オタールの事故死が知らされる。
マリーナとアダは高齢のエカが悲しむのを心配して、
オタールの死を隠し、嘘の手紙を書き続けた。
「どうもあやしい…」。
エカは大切にしていた革表紙のフランス文学全集を売り払い、
3人分のパリ行き航空券を買う。
息子と会いたい一心の母親に根負けしたマリーナは、しぶしぶ同意する。
一方、フランス語が得意な若いアダは、期待に胸をはずませる。
そして、たどりついたパリで3人は…。

グルジアは古くから多様な民族が往来し、
他民族支配を長く受けながらもキリスト教をはじめ
伝統文化を守り通してきた国で、
歴史同様、映画出演者もバラエティに富む。

エカを演じたエステール・ゴランタンはベラルーシ生まれで、
なんと85歳で女優デビュー。本作を演じた時は89歳だ。
アダ役のディナーラ・ドルカーロワはロシア生まれで、
凍てつく極東が舞台の『動くな、死ね、甦れ!』
(ヴィータリー・カネフスキー監督/1989年)の
賢くしたたかな少女役が印象に残っている。
監督はフランス人で、グルジア人はマリーナ役のニノ・ホマスリゼのみ。

1991年の独立後もグルジアの政情は安定しない。
しかし、歴史的、地理的な背景を知らなくても、
帝政ロシア末期、ソビエト連邦時代をくぐり抜けてきたエカのタフさと愛らしさ、
ラストの娘と孫娘への「嘘返し」も心に染み入る作品。
(ジュリー・ベルトゥチェリ監督/2003年/フランス=グルジア/102分)


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