BF063 『老後の生活破綻 身近に潜むリスクと解決策』

 高齢期には「孤立」と「受動的人間関係による支配」というふたつの危険がある、とリハビリテーションが専門の著者は指摘する。
 少子高齢化のなかで、女性高齢者の単独世帯や、経済的自立が困難な子どもと高齢者からなる世帯の増加が予想され、家族の姿や社会的役割は大きく変わりつつある。また、老人クラブや自治会の参加率も低下し、「地縁の弱体化」も進んでいる。
 本書では、「幸せの指標」である健康、家族、経済のすべてがゆらいでいる現代の高齢者の姿をデータで示すとともに、2004年から大阪府社会福祉協議会が運営する「社会貢献事業」の対象となった高齢者の困窮事例と解決に至る手法を紹介する。
 多くの事例に共通するのは、「もともと経済的貧困のケースではなかった」ということだ。破綻に至るおもな原因は、「本人の判断力の低下」、「本人や家族など大切な関係者の健康状態の変化」、「近親者による経済的搾取」、「子どもの失業など、周りとの関わりの変化」、「事故」、「詐欺被害」などで、これらの要素が複合的に絡みあう。危機に直面した高齢者は可能な限りの努力するが、問題が家庭内にとどまることが、事態を深刻化させ、破綻をまねく。
 高齢者の課題に対応する医療、保健、介護などの既存制度はあるが、「多くに資格要件が設けられている」ため、条件にあわない高齢者は利用できないし、制度に関する情報の周知が徹底していない。介護保険制度では、保険料を納められない人や、必要なサービスを利用していない人の存在が見落とされているという。法律や基準の改正は、不正利用の制限や費用の抑制が目的になることが多いが、結果として本当に支援を必要とする人の締め出しにつながるという課題もある。
 一時的な経済的困窮を支援できれば生活の危機に陥らなくてすむ、という具体的な実践を報告するとともに、「見えないふりをすることは問題の先送りにしかならない」と問題意識の共有を訴える。
(西垣千春著/中公新書/777円)


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