「残りの人生」の心意気
サラ・パルフリー夫人(ジョーン・プロウライト)は、最愛の夫に先立たれ、娘との同居にも嫌気がさし、新聞広告でみつけたロンドンの長期滞在型ホテルにやって来た。
ホテルは期待はずれの安普請。気を取り直し、ドレスアップして食堂に行くと、古参のアーバスノット夫人(アンナ・マッセイ)に「ここではみんな普段着なの」と言われてしまう。
シングルルームの長期逗留者は、年金暮らしの高齢者ばかり。
オズボーン氏(ロバート・ラング)以外は女性で、みんなの関心事は、かかってくる電話と訪問者。
ロンドンに孫のデズモンドがいるサラだが、電話をしても、手紙を書いても彼は会いに来てくれない。
ある日、足の悪いアーバスノット夫人のために図書館で本を借りたサラは路上で転び、ルードヴィック・メイヤー(ルパート・フレンド)に介抱される。
彼は小説家志望で、孫と同じ26歳だった。
サラは、助けてもらったお礼にルードヴィックをホテルの夕食に招待。
ところが、ホテルの住人たちはついに孫がやってくると勘違い。
困った彼女はルードヴィックに孫のふりをしてもらうことにした。
にこやかに現れたハンサムな青年はみんなの羨望の的で、サラも久しぶりに高揚感に包まれる。
その後、ふたりは時折、デートをしては文学や人生を語り合い、親愛の情を深めていくが突然、ホテルに本物の孫が現れた!
原作はイギリスの作家、エリザベス・テイラー(今年3月に亡くなったハリウッド大女優とは別人)の『クレアモントホテル』(集英社文庫)で、ルードヴィックが小説の素材としてサラに向けるまなざしは数段クールだ。
映画では、オズボーン氏にプロポーズされたサラが、「これまでの人生、私はずっと誰かの娘で、誰かの妻で、誰かの母親だった。だから残りの人生は”私”として生きたいの」と毅然と断る心意気が胸に響く。
だが、クレアモントホテルの住人は入院したらホテルには戻れない。
食堂で倒れたアーバスノット夫人は介護施設で亡くなり、ホテルの正面階段から落ちたサラもまた、病院からホテルに戻ることはなかった…。
サラ役のジョーン・プロウライト(1929年生まれ)は、誇り高くチャーミングな「英国夫人」を好演。
深い孤独のなかで、「ワインも古いほうが上等」と歌うホテルの住人たちの暮らしぶりも魅力的な作品。
(ダン・アイアランド監督/2005年/イギリス・アメリカ/108分)
