貧しさと温もり
老若問わずシングル女性には、「結婚したくない女」と「結婚できない女」、「結婚したけどひとりになった女」の3種類あるが、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスのアパートで、猫のティトと暮らすルイーサ(レオノール・マンソ)は3番目のタイプだ。
毎日、暗いうちに起き、地味なスーツにきっちり身を包み、背筋をピンと伸ばしてバスに乗る。
職場の「安らぎ霊園」に7時30分に到着し、退屈な受付業務をこなして午後3時30分に退社。
その後は名女優(エセル・ロッホ)の高級マンションで留守番のアルバイト。
昼食と夕食にはサンドイッチを持参し、家ではティトに語りかけるのが唯一の慰めという質素な暮らし。
ところがある朝、愛猫が死んでしまった。
呆然として出勤すると、待ち構えていた若社長が”経営の近代化”のため解雇すると宣告。
名女優には田舎に引っ越すと告げられ、留守番のアルバイトも突然、終わった。
たった1日で生活の支えをすべて失ったルイーサ。
30年勤続で、定年まであと1年。
未払い給与と退職金の請求は、怒りとプライドが邪魔をする。
ティトのために犬猫葬儀社に電話したが、火葬代はとても払えない。
銀行口座の残高は微々たるもの。
追いつめられたルイーサは地下鉄をさまよい、封印してきた亡き夫と娘の思い出に苦しむ。
だが、火葬代を稼がなければならない。
なんとルイーサは、地下鉄の通路で物乞いをするオラシオ(ジャン・ピエール・レゲラス)を見習うことにした(!)。
松葉づえのオラシオは激怒するが、ルイーサに「他の仕事をしろ」とアドバイス。
しかし、ルイーサはカツラとサングラスを用意し、盲目の振りをするから一緒に稼ごうと必死で持ちかける…。
ひとり暮らしで心に鎧を着けてきたルイーサ。
だが、アパートの管理人・ホセはいつも彼女を心配し、滞納電気代もこっそり立て替えていた。
オラシオとホセに励まされ、ルイーサはようやくティトを葬り、自分の人生の悲しみにも泣くことができた。
お堅いルイーサが一気に物乞いに跳ぶストーリーはコミカルだが、「南米のパリ」と呼ばれる大都市の片隅にある温もりが心をなごませる。
片足を失ったオラシオの「みんなワシのようになりたくない。みんなワシを憎む。だから、ワシもみんなを憎む」という”無心する論理”にも考えさせられる作品。
(ゴンサロ・カルサーダ監督/2008年/アルゼンチン、スペイン/110分)
