“終活
“ も段取りが大事
“ も段取りが大事
「私の名前は砂田知昭、享年69 歳になります」。
少々たどたどしい女性のナレーションではじまる本作は、主人公・砂田さんの末娘が撮影、編集、監督し、ナレーションもこなしたドキュメンタリー。
膨大なホームビデオがテンポよく編集され、段取り好きで、ときにユーモラスな砂田さんの「最期の半年」が、プライベートフィルムにとどまらない鑑賞作品となっていることに驚いた。
高度経済成長期に営業畑一筋、熱血会社員として生きてきた砂田さん。
都心のマンションに居を構え、定年後も役員を勤めて67 歳で退職。1男2女は成人し、「一生懸命働いてきて良かった」と言うことができる”団塊の世代”の勝ち組だ。
しかし、第二の人生は末期がんの発見でつまづく。
すでに手術できない状態と分かったが、自己肯定力を失わない砂田さんは「人生最後の一大プロジェクト」を実現すべく、エンディングノートを作成し、実行に移す。
まず、「気合を入れて孫と遊ぶ」。
長男夫婦はアメリカ在住で、可愛い孫娘が二人。
末期がんと知った直後に3 人目が誕生。
クリスマスにはアメリカに行くことを目標に治療に取り組む。
2 番目は、政権交代の季節に「自民党以外に投票してみる」。
いかにも日本のサラリーマンだ。
そして、葬式のシミュレーション。
無宗教の砂田さんはカトリック教会に神父を訪ね、洗礼を依頼する。
教会を選んだ理由は「会場が好印象」、そして「コストがリーズナブル」と推測。
プロジェクト開始から5カ月目には名古屋で一人暮らしの母( 94 歳)も誘って家族旅行…。
病状は悪くなっていくが、主治医が驚くほど元気。
しかし、妻も子どもたちも綱渡り状態であることを知っている。
可能な限り普通の暮らしを選んだ砂田さんだが、「今まで不幸せと思ってないから、入院す
る」と宣言。
娘のカメラは入院1日目、2日目と看取りの日々をとらえ続ける。
「段取りをしてもしすぎることはない」と入念な”終活”に意欲を燃やす姿に、現代日本の幸せの一典型を見出すとともに、1968年の結婚式( 8ミリ映像)にはじまる膨大な「家族の映像記録」に感じ入る作品でもある。
(砂田麻美監督/2011年/日本/90分)
