CF043 『山猫』 Il gattopardo

退くプライド
イタリアの巨匠・ヴィスコンティ監督は、10世紀までさかのぼるというミラノ貴族の出身で、華麗で難しい作品が多い。
ストーリーやロケーション、音楽から衣装まで徹底的にこだわった美しい作品群はもはや古典だが、美少年にのめり込む芸術家を描いた『ベニスに死す』(1971年)、孤独な老教授と若者の交流をテーマとする『家族の肖像』(1974年)など、「老い」と「世代対立」を取り上げた作品が結構ある。
『山猫』の舞台はシチリア島。
時代は1860年、ガリバルディ率いるイタリア統一運動の義勇兵が上陸し、ナポリ王国を滅ぼそうとしていたとき。
「山猫」の紋章のもとに300年間、シチリアに君臨してきたサリーナ公爵家のドン・ファブリツィオ(バート・ランカスター)は、「中産階級が貴族階級の権力を得るだけだ」と冷静に考えながらも、生き残るためには少々の変化(イタリア統一)を受け入れなければと考えている。
公爵の甥・タンクレディ(アラン・ドロン)は義勇軍に参加し、一旗あげる野心を抱いている。
公爵は息子のように可愛がっているタンクレディの資質を伸ばすには、内気な自分の娘より、台頭する中産階級である資産家、カロージェロの娘・アンジェリカ(クラウディア・カルディナーレ)がふさわしいと考える。
美貌のアンジェリカにタンクレディは一目ぼれ。
公爵夫人は「スキャンダルだわ!」とヒステリーを起こすが、公爵は「私はもう決めたのだ」と一喝する。
1861年、サルディニア国王ヴィットリオ=エマヌエーレ2世によってイタリアは統一され、国王の使者が新政府の上院議員になってほしいと公爵を訪ねて来た。
だが、公爵は新政府の誕生を認めはしたが、「新旧ふたつの世界にまたがって生きている」自分は適任ではないと辞退する。
数日後、アンジェリカを社交界デビューさせるため、公爵は大舞踏会を開いた。
若い世代の輝きをみつめつつ、体調が思わしくない公爵は控えの間で、臨終の老人を家族が見守る絵をみつめる…。
大家族の家長が老いを自覚し、古い世界に生きる人間として若者に場を譲る知性と悲哀を教えてくれる作品。
破格の製作費が伝説となっている大舞踏会シーンを楽しむとともに、日常生活に根づくカトリック信仰、『ゴッドファーザー』3部作(フランシス・フォード・コッポラ監督)で知られるマフィアの地・シチリア島の特異な歴史も教えられる。
(ルキノ・ヴィスコンティ監督/1963年/イタリア・フランス/186分)

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