本書はサブタイトルに「孤立死を呼ぶ『セルフ・ネグレクト』の実態」とある。
「セルフ・ネグレクト」は、自殺や自傷と異なり、「自分の世話をしない、自分を放棄することによって、長い時間をかけて生命を脅かしていく行為」なのだという。
ゴミに埋もれた「ゴミ屋敷」に暮らし、孤立死する事件が相次いでいるが、生活環境の衛生を怠り、介護保険サービスなど公的支援を拒否し、生命の危機にさらされる人は「セルフ・ネグレクト」をしている。
また、遠慮や気兼ねから医療・介護のサービスを拒否する、介護認定の申請や事業所との契約に馴染めない、「散らかった家を見られたくない」とか「他人に上がり込んでほしくない」と在宅サービスを利用しない、「お上の世話にはなりたくない」といった高齢者も「セルフ・ネグレクト」に陥る可能性が高いと指摘する。
地域看護学・公衆衛生看護学が専門の著者は初の全国調査の結果をもとに、「セルフ・ネグレクト」の特徴と要因を整理し、10タイプについて具体的事例を紹介。
推計では年間1~2万人の高齢者が「孤立死」(死後「4日以上」を経て発見される状態)しているが、その多くは生前、「セルフ・ネグレクト」だったという。
東京都23区では、2006年の時点で3395人、毎日10人前後が「孤立死」しているという報告は衝撃的だ。
人には「健康に悪い」と愚かな行為と思われても、個人の領域に関する限り邪魔されない「自由」が認められていて、それを「愚行権」と呼ぶそうだ。
だが、著者は高齢者の「セルフ・ネグレクト」には、認知や判断能力の減退、社会的な孤立、親族や家族との関係などさまざまな要因があり、「自由意思に基づく自己決定」だからと介入を避けることは、「支援が必要な高齢者を社会が放任(ネグレクト)することになりかねない」と警告する。
「セルフ・ネグレクト」の問題を解決するには、本人の生活スタイルを把握し、正しい情報と知識を提供し、なによりも本人と信頼関係を築くなど、「短くても1年くらい」はかかるという。
「拒否」に手を差し伸べるのをやめるのではなく、「拒否」は「生きようとする叫び」ととらえることが必要だと訴える。
(岸恵美子著/幻冬舎新書/819円)
