CF049 『別離』 Nader and Simin, A Separation

だれが父親を介護するのか?
舞台はイランの首都・テヘラン。
家庭裁判所でシミン(レイラ・ハタミ)は、娘の教育のために国外移住許可を取ったのに、夫・ナデル(ペイマン・モアディ)が反対していると訴える。
夫はアルツハイマー病の父親を置き去りにできないと言う。
移住許可のリミットまで40日。
ナデルは銀行員で、シミンは英語教師。
ひとり娘は進学校に通う。
離婚して母子だけで移住するにしても、娘には父親の許可が必要だ。
判事は「この国の子どもに未来はないか」とシミンに問いかけ、離婚の必要はないと言い渡す。
帰宅した妻は実家に帰る準備をし、夫は家政婦として雇うラジエー(サレー・バヤト)を面接する。
妊娠中のラジエーは生活の苦しさを補うため、失業中の夫に隠して働くことにした。
だが、バスで2時間かけて通う仕事は初日からつまづく。
ナデルの父親が、息子夫婦の不穏な気配のせいか、失禁してしまったのだ。
ペルシャの長い歴史を誇るイランは、イスラム教徒の国。
女性は親族以外の男性にその美を見せてはならない。
西欧志向のシミンはスカーフの軽装だが、信仰深いラジエーは全身をチャドルで覆う。
家族以外の男性の身体や排泄物との接触を迫られたラジエーは、イスラム法学者に「私が着替えさせたら罪になりますか?」と電話で問う。
数日後、帰宅したナデルは、手首をベッドに縛りつけられて意識を失っている父親を発見する。
逆上した彼はラジエーをののしり、お金を盗んだと追い出す。
ラジエーは翌日、流産した。
イランでは、故意による胎児の死は殺人罪になる。
ナデルは警察で妊娠を知らなかったと主張し、ラジエーの夫は階段から突き落とされたと激怒する…。
どこの国でも身近に起こりそうなトラブルが重なり、だれもが小さな嘘をついていることに引き込まれていくサスペンス映画。
EPA(経済連携協定)で看護師・介護福祉士候補が来日するインドネシアはイスラム教徒が世界最多で、フィリピンは14世紀にイスラム王国があったという。
イスラム法に根ざした日常生活や紛争解決ルールも興味深い作品。
(アスガ―・ファルハディ監督/2011年/イラン/123分)

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