BF082 『ロスト・ケア』

介護保険がメインテーマの本格ミステリー
年月日と登場人物が交錯しわくわくする語りだが、登場人物の多くは介護者、介護労働者という点に注目。
検察官は大手介護会社フォレスト(明らかに株式会社コムスンがモデル)が経営する高級有料老人ホームに父親を入れたばかりだった。
フォレストの野心的な営業マンは、会社倒産寸前に顧客データをごっそり持ち出し、悪質商法に転職した。
フォレストの訪問入浴チームのスタッフは、いつもストレスをためていた。
調書を取られた被害者遺族は、暴言暴行が絶えない認知症の親の介護に疲れ果てていた。
連続「安楽死」殺人事件の犯人は誰か?
「介護保険は人助けのための制度じゃない。介護保険によって人は二種類にわけられた。助かる者と助からない者だ」
介護分野に進出し全国規模で事業展開する企業は「多額の先行投資を行ない大勢の従業員を抱えている。ルール(介護報酬)が変わったからといって簡単に撤退するわけにはいかない。何としても、新しいルールの下でサバイブしなければならなのだ。」
「人間は機械ではないし、介護は身体機能のメンテナンスではない。直接的な身体の介助だけが介護ではないのだ。」
「金をもらわず、無欲無私で、他人の尻を拭ける人間がどれだけいると思っているのか? 恐るべき想像力の欠如。」
随所に散りばめられた介護保険制度への指摘は、もっともだ。
超高齢社会を迎えることは「分かっていたはずなんですけどね。」
(葉真中顕著/光文社/1575円)

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