CF057 『終の信託』

愛と医療と法律の関係
2004年秋、呼吸器科のベテラン医師・折井綾乃(草刈民代)は、検察庁に「江木泰三さんの件」で呼び出された。
江木(役所広司)は彼女の担当患者で、長くぜん息を患い、3年前に62歳で亡くなっている。
折井を呼び出した検事の塚原(大沢たかお)は、終末期の江木の気道確保チューブを抜き、致死量に及ぶ筋弛緩薬を投与した折井を、殺人容疑で逮捕するつもりだった。
その意図を知らず、検察庁の待合室で、折井は回想する。
江木は実直なサラリーマンで、苦しい発作によく耐える患者だった。
また、遊び人の同僚医師との恋愛に傷つき、自殺未遂を起こした彼女をさりげなく慰めてくれた。
10年以上も続く患者と医師の関わりは、信頼と友情をはぐくんだ。
江木の病状は重症期に移り、入退院を繰り返した。
病室で江木は、幼い頃、満州・チチハルで暮らし、5歳の妹が死んだこと、苦しむ妹が息を引き取るまで両親が子守唄を歌いながら看取った思い出を語る。
また、別の日、往診帰りの折井は偶然、退院中の江木に出会った。
死が近いことを予感する江木は、「そのときが来たら、チューブにつなぐのではなく、早く楽にしてください。誰より信頼している先生に決めていただきたい」と彼女に訴える。
やがて、江木が心肺停止状態で病院に運ばれてきた。
人工呼吸器が着けられ、数日後には自発呼吸に戻ったが、意識は回復しない。
江木の信頼に応えて苦しみから解放するのか、医療のプロとして経過を見守るのか、悩んだ末に折井は決断した…。
監督は「まぎれもなくラブ・ストーリー」と確信しているそうだが、朔立木(さく・たつき)原作のタイトルは『命の終わりを決めるとき』。
映画では、リビング・ウィルを書かずに主治医に安楽死を頼む患者、「これ以上、苦しめたくない」という情緒に動かされる医師、なにごとも決めようとしない家族など、終末期に向きあう人びとの弱さがくっきりと描きだされる。
「可視化」が求められている検察の取り調べの強引さとあわせて、現代日本の重要なテーマが織り込まれた力作。
(周防正行監督/2012年/日本/144分)

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