親子未満他人以上の慈しみ
香港の市場で桃(タオ)さん(ディニー・イップ)は、いつも店の若者にからかわれる。
彼女は孤児で、13歳から60年間、梁(ヤン)家4代の家政婦として働いてきた。
梁家はサンフランシスコに移住し、映画プロデューサーの末っ子・ロジャー(アンディ・ラウ)と桃さん、猫のカカだけがマンションに暮らしている。
心臓の手術をしたことがあるロジャーのため、桃さんは蒸し魚やスープなど料理に気を配る。
だが、生まれた時からずっと桃さんがいるロジャーは、黙々と食べるだけ。
そんな暮らしが続くある日、桃さんは脳卒中で倒れた。
数日で退院できることになったが、桃さんは「あなたのおばあさんも発作を繰り返し、弱っていった。私は安心できる老人ホームに入る」と宣言。
一方、離れてみてはじめて、ロジャーは桃さんの細やかな愛情に気がついた。
彼はマンション近くに老人ホームを探し、知り合いの俳優・バッタ(アンソニー・ウォン)と偶然出会う。
バッタは「介護施設に投資したら、コンビニより儲かった」と言い、自分が経営する老人ホームの利用料を2割引きにしてくれた。
老人ホームの主任・チョイ(チン・ハイルー)は「あなたは恵まれている」と桃さんを迎える。
とはいえ、個室といっても大きなフロアがパーテーションで仕切られているだけ。
自費の通院支援サービスは、桃さんと同じく広東語を話す香港人、広東語が話せない中国人、不法滞在外国人などの区分で料金が異なるのに、文化の違いを感じる。
ロジャーは仕事の合間にせっせと桃さんを訪ね、他の入居者に「義理の息子です」と挨拶する。
ロジャーのお母さんも大きな花束と燕のスープを持って、サンフランシスコからやってきた。
冷凍庫に残っていた桃さんの得意料理を楽しんだロジャーの同級生たちは、電話口で歌をうたった。
桃さんはリハビリに励み、他の入居者を注意深く観察し、少しずつ老人ホームの日常に慣れていく。
ロジャーとも心温まる交流をいくつも重ねて、しかし、少しずつ衰えていく。
二度目の発作は肺気腫を併発し、医師はロジャーに「もう手のほどこしようがない。自然に逝かせてあげては」と決断を迫る…。
貧しくても誠実に生きた桃さんの「晩年のしあわせ」が描かれるとともに、”6億人の超高齢化時代”を迎えるという中国の介護事情の一端も教えてくれる作品。
(アン・ホイ監督/2011年/中国・香港/119分)
