CF061 『愛、アムール』

「人生は素晴らしく、かくも長い」
毎月のように介護殺人がニュースになる。
今年は特に「妻殺害容疑で96歳逮捕」、「認知症の79歳妻を絞殺容疑、80歳の夫逮捕」など”老老介護”の悲劇が目につく。
パリ中心部の高級アパルトマンが舞台の本作は、そんな悲劇をリアルかつエレガントに描き出す。
ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン、1930年生まれ)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ、1927年生まれ)は仲睦まじく、悠々自適の知的カップル。
アンヌは元ピアノ教師で、国際的に活躍するピアニスト・アレクサンドル(アレクサンドル・タロー)は自慢の弟子だ。
連れだってピアニストのコンサートに出かけ満ち足りた翌朝、アンヌは発作を起こす。
成功率95%の手術は失敗し、右半身にマヒが残った。
退院したアンヌは、「二度と病院に戻さないと約束して」と訴える。
「夫婦で困難を乗り越えてきたが、新たな局面だ」とジョルジュはつぶやく。
移乗やトイレ介助、リハビリと二人三脚の暮らしが続く。
だが、アレクサンドルから「心から回復を祈っています」とメッセージが届き、ふたりは沈黙する。
「長生きしても無意味ね」と妻は嘆き、「もし逆の立場ならどうする」と夫はなだめるが、「逆の立場は考えたくもない」と返事はつれない。
アンヌの状態は次第に悪化し、訪問看護師が入る。
娘のエヴァ(イザベル・ユペール)は「まるで別人だわ。入院させるべきよ」と主張するが、ジョルジュは「入院させないと約束したし、病院に相談してもホスピスに送られるだけだ」と拒む。
アパルトマンの管理人は買い物などでジョルジュを支え、「妻も私もご夫妻の姿に感動しています」と敬意を伝える。
しかし、新たに頼んだ2人目の訪問看護師は気配りに欠けていた。
解雇を告げたジョルジュは「意地の悪い年寄りね」とののしられ、「将来、君が同じ扱いを受けることを願っている」とやり返す。
妻の尊厳を守り続けるジョルジュだが、疲労は濃くなっていく。
「今のままじゃだめよ」と口だけの娘に、「ママンを引きとるのか? 老人ホームに入れるのか?」と苛立つ…。
“老老介護”が孤立していく過程が細やかに描写され、「かくも長き愛」の終着地はどこにあるのかを問いかける。
(ミヒャエル・ハネケ監督/2012年/オーストリア・フランス・ドイツ/126分)

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