CF063 『カルテット! 人生のオペラハウス』 Quartet

火葬場で主役になる前に…
有料老人ホームが投機対象になり高額取り引きされるのが話題だが、イギリスのベテラン俳優たちが競演する『カルテット!』は老人ホームの経営難が隠れたテーマ。
「ビーチャム・ハウス」は、引退した音楽家たちの老人ホーム。
貴族が遺した広大な邸宅には、朝からピアノやコーラスが響く。
だが、ホームは存続の危機にある。
入居者のひとり、舞台監督だったシィドリック(マイケル・ガンボン)は定期演奏会で運営資金の調達をめざすが、チケットの売れ行きは鈍い。
礼儀正しいレジ―(トム・コートネイ)と女好きのウィルフ(ビリー・コノリー)、しょっちゅう物忘れをするシシー(ポーリーン・コリンズ)は元オペラ歌手。
かんしゃくを起こすシィドリックをなだめるが、いいアイデアは浮かばない。
そんなある日、「ビーチャム・ハウス」にジーン(マギー・スミス)がやってきた。
彼女は不世出のソプラノ歌手で、レジ―を裏切った元妻だ。
「傷つけて悪かったわ。辛くしないで」と謝るジーンに、レジ―は「出ていけ!」と冷たい。
一方、シィドリックはジーンの登場に大興奮。
実はジーン(ソプラノ)とシシー(メゾソプラノ)、レジ―(テノール)、ウィルフ(バリトン)にはオペラ『リゴレット』(ヴェルディ作)のカルテット(四重唱)の伝説的名演があり、DVDも再発売されているのだ。
演奏会の目玉を最高のオペラ・カルテットといわれる『美しい恋の乙女よ』にすれば、「チケットも値上げできるし、再来年までホームは持つかも知れん!」。
しかし、衰えた声に自信が持てないジーンは、「君のファンは全員、死んでる」、「歌ったほうがいい。あとは火葬場で主役になるだけだ」と説得されても頑なに拒む…。
初秋の美しい田園風景のなか、カルテット4人の名演技と洗練された英国シニア・ファッション、引退したチェリストやトランペッターなどの魅力的な演奏が楽しめる。
なお、本作はイタリアを代表するオペラ作曲家、ジュゼッペ・ヴェルディの生誕200年記念作品。
26歳から79歳までせっせとオペラを作って稼いだヴェルディは、老いて身寄りのないオペラ歌手のために「音楽家のための憩いの家」という老人ホームを作った。
いまや歴史的建造物のホームはミラノ市内に現存し、1984年にはドキュメンタリー映画『トスカの接吻』(ダニエル・シュミット監督)が作られた。
『カルテット!』の原作はこのホームからヒントを得たそうだが、ドキュメンタリーもおすすめだ。
映画『カルテット!人生のオペラハウス』公式サイト
(ダスティン・ホフマン監督/2012年/イギリス/98分)

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