生きづらい性格を直すには…
口数が少なく無愛想な人はつきあいづらい。
本作の主人公、72歳のアーサー(テレンス・スタンプ)は、むっつりした頑固者。
長年連れ添った妻・マリオン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)はがんの手術から回復したばかり。
アーサーは愛情深い夫だが、それは公営住宅にふたりでいる時の姿だ(公営といっても、日本よりかなり広い一軒家)。
マリオンは公民館のシニア合唱団「年金ズ」で歌うのに夢中。
アーサーはしぶしぶ車イスのマリオンの送り迎えをしているが、合唱団のメンバーとは挨拶も交わさない。
夫婦のひとり息子・ジェームズ(クリストファー・エクルストン)は、8歳の娘を育てるシングル・パパ。父と息子の会話はいつもぎこちなく、マリオンは「もっとやさしくして」と夫を諭す。
アーサーもわかってはいるのだが、長年の性格は直せない。
合唱団はコンクールに応募し、心配するアーサーを押し切ってマリオンは練習に励む。
だが、彼女は再発した。
夫婦は医師から「積極治療は苦痛を伴うだけ。家で好きなことを楽しんで」と告げられる。
予選の日、マリオンはアーサーをみつめ、持てる力を振り絞って『トゥルー・カラーズ』(シンディ・ローパー)を歌う。
「私にはあなたの本当の色が見える。怖がらないで本当の色をみせて」…。
数日後、マリオンは自宅のベッドで息を引き取った。
葬儀が終わり、アーサーは妻のアドバイスはどこへやら、息子に「もう会わないほうがいい」と宣言。
マリオンの墓に日参して語りかけ、夜はソファで眠るひとり暮らしをはじめた。
そんなある日、合唱団のコーチ・エリザベス(ジェマ・アータートン)が訪ねて来た。
予選を通過した「年金ズ」は本選に進むことになり、アーサーを誘いにきたのだ。
若いエリザベスに説得された彼はおずおずと練習に参加するようになり、楽しむことを知る。
こわばった心が和らいできたアーサーは、息子に謝りに行ったが、「手遅れだから放っておいてくれ」と門前払いされてしまった。
大荒れになった彼は、コンクールに出ないと合唱団に八つ当たり。
エリザベスに声のよさを認められ、ソロで『ララバイ』(ビリー・ジョエル)を歌うことになっていたのに…。
高齢者にポップスやロックを歌わせると、晩年の寂しさがやわらぐようだ。
主演したレッドグレイヴ(1937年生まれ)とスタンプ(1939年生まれ)は、味わい深い歌声を聴かせてくれる。
(ポール・アンドリュー・ウィリアムズ監督/2012年/イギリス/94分)
