愛する者が医療を拒んだら…
主役の三浦友和は力演するが、ストーリー展開にかなりの辛抱が必要だ。
それでも注目するのは、医療を拒んで死ぬと残された者には罰が待っている、という実話にもとづくテーマを取りあげているからだ。
石川県七尾市で縫製工場を営む清水(三浦友和)は、知人の連帯保証人になったりして4000万円もの借金を背負った。
時を同じくして11歳年下の妻・ひとみ(石田ゆり子)はがんの手術を受けた。
退院したひとみは娘夫婦の家で、金策に走り回る清水を待つ。
かろうじて自殺を思いとどまった清水は、姉から「自己破産して、けじめをつけなさい」と迫られる。
「逃げたら卑怯や言われるんやろな」とぼやく清水に、ひとみは「私はオッサンのそばにいられたらいいんよ」と言う。
温泉地なら住み込みの仕事があるというアバウトの計画で、ふたりは水色のワゴン車で郷里を脱出した。
ひとみは大衆食堂で「結婚してから初めてのデートよ」と喜ぶ。
だが、行く先々のハローワークに、50歳過ぎの清水が応募できる求人票はない。
そして、彼はひとみのがんは再発するという医師の予告を隠していた。
なけなしの50万円を惜しみながら使い、銭湯に行き、車の後部座席で眠るキャンプ生活。
ワゴン車が走る姫路、鳥取砂丘、明石海峡、三保の松原などの風景は美しい。
あてのない旅だが、互いの愛情を確かめて、ひとみは幸せそうだった。
そして、彼女は再発した。
病院を頑なに拒む妻を尊重して、清水は黙って運転を続ける。
苦しむ姿に思い余って救急病院に連れていっても、ひとみは夫と離れるのを激しく嫌がる。
このあたりは家庭を顧みなかった夫への復讐か、と思ってしまうほど。
観念した清水は、故郷に近い氷見港に駐車して介護をはじめる。
所持金は乏しく、彼はへとへとだった。
ある日、気分がいいと言うひとみのリクエストで東尋坊に向かったが、途上で妻は息を引き取った。
ひとみの遺体とともに兄の家を頼った清水は、「保護者責任遺棄罪」で逮捕される。
刑事は「なんで病院に連れてかなかったんだ」と責め、「保護せんかったらいけん病人を保護せんかった罰や」と手錠をかけた…。
新聞にはときどき、高齢の親の死を隠していた中高年の子どもの「保護責任者遺棄罪」が載る。
親の年金しか収入源がないという動機説明が多いが、経済的な事情で医療が利用できない、あるいは本作のように本人が治療を拒んだり、最期まで家族だけで過ごしたいと願うケースもあるだろう。
医療が関与しなければ死ねない現代を考えさせられる。
同名の原作(清水久典著)は新潮文庫で読むことができ、平易で率直な文章に好感が持てる。
(塙幸成監督/2011年/日本/113分)
