CF066 『人生はビギナーズ』 Beginners

親の介護から得るものは…
冬のある日、オリヴァー(ユアン・マクレガー)は、父・ハル(クリストファー・プラマー)の看取りを終え、淡々と家を片付けた。
そして、父が遺した愛犬・アーサーに「これからは僕と暮らすんだよ」と語りかけ、イラストレーターの仕事にのめり込んだ。
「昔は愉快な奴だったのに」と心配した友人に誘われた仮装パーティーで、オリヴァーはフランス人のアナ(メラニー・ロラン)に出会った。
女優として働きながらホテル住まいを続けるアナは自由で、美しかった。
「38歳でまた女性に恋するなんて」とためらいがちなオリヴァーの失恋経験は、数えきれない。
長続きしない原因は、両親のぎくしゃくした夫婦関係が子ども心に植えつけた不安感だった。
とはいえ、美術館長の父と専業主婦の母の結婚生活は44年間も続いた。
おまけに母が死んで半年後、75歳になった父は「私はゲイだ」と息子にカミングアウト。
「気持ちだけでなく、これからは実践したい」と宣言した彼は、呆然とするオリヴァーを尻目にゲイ雑誌に募集広告を出し、アンディという若い恋人を得た。
かなり遅まきの青春を積極的に楽しむハルだが、がんが発見された。
オリヴァーは病院での治療、自宅でのホスピスケアに献身的に取り組むが、初めて見る父と恋人、そしてゲイ仲間の親密な交流にとまどい続けた。
オリヴァーの語る思い出に、アナは「あなたの喪失感を私は癒せない」と悩む。
だが、彼女にも自殺願望を抱く父がいて、毎晩のように電話がかかってきていた…。
オリヴァーは介護するなかで、ユダヤ系であることを隠していた母、ゲイであることを隠していた父の「余裕のなかった時代」を知った。
父の最後の心配は、恋愛に臆病なひとり息子のことだった。
だが、オリヴァーは人生の晩年に「本物の自分」を取り戻した父の姿を追想しながら、アナとの関係に一歩踏み出す勇気を得ることができた。
映画では、オリヴァーの両親が生きた時代のアメリカの映像や音楽がスタイリッシュに挿入され、人間の言葉を150は理解できるという犬のアーサーとの会話も楽しい。
親を介護することは、彼ら彼女らが生きた時代を教えられ、いまを生きる者たちを励ますものでもあると示す作品。
(マイク・ミルズ監督/2010年/アメリカ/105分)

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