BF095 『高齢初犯 あなたが突然、犯罪者になる日』
『犯罪白書』(法務省)がはじめて「高齢犯罪者の実態と処遇」を特集し、「高齢犯罪者の増加の勢いは、高齢者人口の増加の勢いをはるかに上回っている」と指摘したのは2007年版だった。
本書は、日本テレビとネットワーク29局が製作に参加するドキュメンタリー番組取材班(44年の歴史があるという)のレポートだ。
高齢者の犯罪は1993年に5.7%だったものが、2012年には23.8%と4倍に増えた。
2013年には「罪を犯した人の4人にひとりが60歳以上」となった。
そして、検挙された高齢者の65%超が初めての犯罪、つまり「高齢初犯」(高齢期になって突然、罪を犯すケースは「遅発突発型」とも呼ばれる)だ。
殺人の10%は介護疲れや病気を苦にした「介護殺人」で、身近な間柄の人に対する凶悪事件が多い。
女性高齢者の8割超は万引きなどの窃盗犯で、一般の検挙者に多い生活苦でなく、ほしいからという「物欲犯」が多いという。
取材班は「高齢者はなぜ犯罪に走ってしまうのか」を追い、300円の惣菜を万引きした70歳、妻を失い自暴自棄になって親類宅に強盗に入った65歳、お金を返さない甥に腹を立て放火した84歳…といったケースを分析する。
日本と同じように高齢化が進むスウェーデンやドイツでは、特に高齢者犯罪が増えているわけではない。
取材で明らかになってきたのは「高齢者がキレやすくなったのではなく、高齢者を取り巻く『環境』が変わった」せいではないか、ということだ。
経済的な困窮よりも決定的な原因は、「社会的孤立」にあるという。
インタビューに応じた弁護士は「キレるとは『頭の回路』がキレるのではなく、『人と人の関係性』がキレてしまっている」と指摘する。
人との関係性がないと犯罪に走ってしまうが、関係性が復活すれば食い止めることも、更生することもできるのだという。
「社会的孤立」には、ひとり暮らし世帯、高齢夫婦世帯が増加するなかで「家族からの孤立」、「近隣や地域社会からの孤立」、さまざまな福祉制度や支援を利用していない「行政からの孤立」がある。
また、高齢になると体力が低下し、健康に不安を抱え、経済環境や家庭環境も変化する。
孤独感が募る生活変化のなかで、知らず知らずのうちにストレスが溜まる。
自らSOSを発信したり、誰かに相談することができず、ひとり悶々と過ごす時間が増えれば、穏やかでいることもままならなくなる。
取材に応じた高齢者は孤立を否定するが、「本人が『孤立』していることを感じないくらい『孤立』しているとしたら、そのこころの闇は本人が自覚できないくらい深くて暗い」。
「そうした状況を生んでしまうほど、日本社会は包容力がなくなってしまった」と総括しつつ、「高齢者による犯罪は、もはや他人事ではない」、「私もやってしまう可能性がある」と包括的な対策の必要性を訴える。
最終章は「高齢初犯に陥らないための『7つの習慣』」のガイドつき。
(NNNドキュメント取材班著/ポプラ新書/842円)
