BF096 『社会保障亡国論』

BF096 『社会保障亡国論』
一般会計のうち社会保障関係費の一般歳出は29.1兆円と54.0%を占め、「国の財政は社会保障関係費を捻出することで精一杯」だ。
だが、消費税を引き上げても、安心の社会保障にはならないし、財政破綻を防ぐこともできないと著者はいう。
税金は社会保障関係費の一部で、全費用(社会保障給付費)は110.6兆円(2013年度予算ベース)にのぼり、「だいたい国内総生産(GDP)の四分の一程度」が社会保障費に使われ、「日本経済に様々な弊害をもたらしている」。
消費税が10%になっても、得られる税収増は13.5兆円。
一方、社会保障給付費の伸びは年間3~4兆円で、消費税を10%まで引き上げても、「大体、3~4年程度で引き上げの効果は消失する」計算になり、「焼け石に水」だという。
おまけに、3%分の税収増でさえ、95.9兆円という史上最大の予算が組まれ、消費税率にして2%を超える5.5兆円の補正予算が計上されている。
つまり「『消費税財源を社会保障費以外に流用すること』は可能なのであり、実際に行われつつあります」。
日本の社会保障制度は「社会保険方式」がメインだが、①賃金の低減の持続、②非正規雇用の増加で保険料を納める正社員が減少、③少子化による現役世代(生産年齢人口)の減少のなか、「保険料収入が頭打ちになっている」。
それなのに、厚生労働省の試算では、社会保障給付費は2025年には148.9兆円、2035年には189.6兆円と「巨大な金額」になっていく。
「歴代政権のように、保険料の引き上げを政治的にためらう場合」には、公費投入割合も増え、さらに消費税率が高まることになる。
「諸悪の根源」は「『賦課方式』という不適切な財政方式を、慢性的に続けるていること」にあり、「人数の多い高齢者の受益額を人数の少ない現役層が支える」ことにある。
「賦課方式」は、「若者から高齢者への『仕送り』方式」で、「主な受益は高齢期に発生しており、逆に負担はほぼ現役期に集中」している。
少子化対策を打っても、今年生まれの赤ちゃんが40歳になったとき、39歳以下の人数が全て2倍になる状況でなければ、「賦課方式」による社会保障財政が改善することはない。
また、「現在の高齢者たちがまだ若いころに納めていた保険料は、彼らが老後に受給する年金額に対して、はるかに足りない額」なのだ。
おまけに、今の若者や将来世代は「自分が受益する社会保障給付よりもはるかに大きい負担を迫られる」という「世代間不公平」が横たわっている。
「我々は、人口構成の変化を受け入れ、それに合わせた社会保障改革を行わざるを得ない」。
そのために、「年金支給開始年齢は70歳以上に」、「高齢化社会の安定財源は消費税できなく相続税」、「公費投入縮減から進める給付効率化」、「消費税不要の待機児童対策」、「『貧困の罠』を防ぐ生活保護改革」などを提案する。
「社会保障・税一体改革」は「印象操作」であったという分析には鋭いものがあり、国民所得の把握なくして「負担の平等」はないという論にもうなづけるものがある。
だが、著者にとって、社会保障とは「ピンチに陥った時の公的支援制度」で、労働など「社会の基本」が整備され、「その上で、余裕があれば充実させるべきもの」とされている。
「国民自身が社会保障に関して正しい知識や情報を得ることが重要」という主張や、厚生労働省に「丸投げ状態」の社会保障改革への危機感には賛同できるものがある。
だが、著者の社会保障給付費削減案は、削減対象となる高齢者やその子ども(若者や将来世代)のリスクがカウントされていない。
「じゃあ、自分で親を看るんだね?」と聞きたくなるところが惜しい。
(鈴木亘著/講談社現代新書/907円)

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