制度転換が被災地にもたらす影響
東日本大震災から4年が過ぎたが、避難者約24万人のうち、約半数が仮設住宅などで「不自由な避難生活」をしている。
そのほか、自宅が全壊しなかったがゆえに「津波浸水区域」に残り、避難生活と同じような環境にある「在宅の被災者」がいる。
本書では被災地をたんねんに訪ね、被災者のなかでも高齢者、子どもを中心に、「被災弱者」の姿を教えてくれる。
被災した人たちがいまだに不自由な暮らしをしている大きな理由のひとつに法律の不備がある。
1962年に施行された災害対策基本法は、東日本大震災から2年後の2013年6月まで改正されなかった。このため、食料確保や住宅応急修理、医療や交通手段の確保など被災者支援策の多くが古い法律にもとづく運用となり、実態に即した支援につながらなかったという。
国の復興予算がすでに20兆円を突破していにもかかわらず、被災者の生活再建に直接効果のある
被災者生活再建支援金は3006億円(2014年11月末)、災害弔慰金590億円(2014年6月末)にとどまる。
「震災便乗型の事業を打ち切るなど復興予算の中身を根本から見直すとともに、被災者本位の政策に転換しなければ、被災者の生活再建は進まない」
「それどころか、仮設住宅の入居期限切れとともに、生活困窮者の続出は避けられない」
という著者の指摘を重く受け止めたい。
介護保険制度との関連では、宮城県石巻市で震災後、要介護認定率が急上昇し、特に要支援1~2、要介護1~2の「軽度者」が急増しているという。
急増の理由には、
①狭い仮設住宅に閉じこもることによる健康状態の悪化、
②家族やコミュニティの力の低下
が考えられるという。
医師は「4~5年後には、要介護度が全体として高まり、寝たきり状態で在宅医療を必要とする患者が爆発的に増える可能性がある」としている。
介護保険制度は2015年度改正で、「中重度」に「重点化・効率化」することを掲げているが、「軽度」を支えない制度転換が被災地にもたらす影響をも考えさせられた。
(岡田広行著/岩波新書/864円)
