非正規労働者の将来危機と最低所得保障のあり方
介護保険の利用者は500万人を超えたが、認定を受けてもサービスを利用しない「未利用者」も100万人を突破した。
「家族がいるから」「まだ必要ないから」といった理由が散見されるが、実態調査はなく、経済的な理由で「未利用者」になっている人も相当数いると思われる。
介護保険サービス利用者の平均年齢は82歳を超え、年金収入に頼る人がほとんどなので、本書を読んでみた。
年金制度は複雑な見直しが繰り返されてきた。
加入タイプは「三階建て」で、1階は国民年金という「加入」形態による基礎年金という国民共通の部分、2階はサラリーマンなどが加入する厚生年金、3階に企業年金や個人年金(確定拠出年金)がある。
保険料を払う被保険者は、自営業や非正規労働者、無職の人は第1号、サラリーマンや公務員本人は第2号、第2号に扶養される配偶者(事実婚を含む)は第3号にわかれる。
国民年金の給付は基礎年金と呼ばれて3種類あり、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金だ。
基礎年金は20~59歳までの国民に加入が義務づけられ、月額1万5250円(2014年度)を40年間(480か月)支払った場合、満額で月額6万4000円だ。
厚生年金の保険料は「総報酬」(賃金、残業代、通勤手当、ボーナスの合計)に保険料率をかけて計算され、労使で折半する。
40年加入すると、厚生年金額は現役時代の平均賃金の22%で、基礎年金の給付額を加えて、厚生労働省が想定するモデル世帯で月額21万8000円程度とされている。
厚生年金の給付は、加入月数と「平均標準報酬額」(標準報酬額×再評価率)、制度上の給付乗率で計算される。
再評価率と給付乗率は「年金改革」で引き下げが続いている。
また、2004年に「マクロ経済スライド」が導入された。
年金額は物価に連動するが、マクロ経済スライドは「物価上昇分から約1%引き下げた分しか年金額を増やさない仕組み」で、年金の実質水準は低下するという。
日本が直面している年金制度の課題は、①制度の持続安定性、②非正規労働者の未納増加、③低所得高齢者の生活保障になるが、「先進国での共通の問題」という。
年金制度は実質的な給付水準切り下げが続くが、少子高齢化のなかでさらに抑制の必要に迫られるかも知れない。
若い世代は、支払った保険料に見合う給付があるのか不安だ。
特に非正規労働者にとって、給与天引きではなく、定額負担のうえ、労使折半はなく全額本人負担の国民年金保険料は「逆進的」で、未納の増加につながっている。
公的年金は5年に1度、財政チェックがあり、2009年の検証では「当面、危機的な状況になっているわけではない」。
だが、未納者は将来、年金を受け取ることができないので、低年金者や貧困高齢者になる危険性が高い。
2008年の推計値では、270万人の未加入、未納者が存在する。
一方、すでに年金を受給している高齢者をみると、2012年度の時点で、約850万人が基礎年金のみで暮らしている。
平均受給額は月額5万円程度で、生活保護を受ける高齢者が増加している。
日本の国民年金は所得に関わらず定額負担だが、ヨーロッパ各国では、サラリーマン、自営業者を問わず報酬・所得の一定割合という比例保険料になっているそうだ。
定額負担そのものが、「国際比較から見ると特異」という。
仮にすべての人が所得比例年金に加入し、保険料率にもとづき納付した場合、自営業者は4割程度負担が軽減される計算になる。
また、先進国では最低所得保障のために、さまざまな「公的扶助」を用意している。
日本は生活保護制度しかないが、各国は高齢者向け、障害者向け、失業者向け、ひとり親世帯向けなどタイプ別に給付要件の異なる複数の公的扶助制度を用意しているそうだ。
年金制度の複雑な歴史をひもとき、直面している課題を整理し、①年金の財政的安定性の確保、②働き方に中立な制度、③最低生活保障の確保という「三つの思想の役割分担による生活保障の仕組み」を提案する。
スウェーデンの年金改革では、政治レベルで①課題を共有する、②必ず合意する、③合意内容を一方的に破棄しない、④年金改革の議論を政治パフォーマンスや1回ごとの選挙の材料にしない、⑤利害関係者の影響を受けない、というルールにもとづく与野党間協議があるという。
日本の政治にもぜひ、見習ってもらいたいルールだ。
なお、障害年金は20歳から支給されるが、「障害者のうち年金を受け取っているのは一部に過ぎない」。
また、日本の障害年金の「障害」の概念は日常生活を営むことができるのかという点に着目した「医学的な機能障害」だが、ヨーロッパでは障害によって働けない「労働不能」を支給要件にしているそうだ。
つまり、日本は障害により働くことができなくても、障害年金を受け取ることができない人がいるということになる。
さらには、年金未納率の増加により、膨大な無年金障害者予備群が存在している可能性があるという指摘は重視したい。
(駒村康平著/岩波新書/820円+税)
