アスペルガー青年のラブ・コメディ
ひと昔前に「自閉症」と呼ばれた障害は、「発達障害」に変わり、「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)や「学習障害」(LD)など細分化された。
いずれにしても、人と違ったところが目立つため、社会で生きづらい人たちだ。
本作の主人公・シモン(ビル・スカルスガルド)は、アスペルガー症候群の青年だ。
天文学が好きで、人とかかわるのが大の苦手。
嫌なことがあるとドラム缶で作った宇宙船に閉じこもる。
「宇宙が好きだ。誤解もなく、感情もないから」。
宇宙船に入ったシモンと交信可能なのは、兄のサム(マルティン・ヴァルストロム)だけ。
でも、彼は恋人と新生活をはじめようとしていた。
シモンはそれが不満で、宇宙船に籠城し、両親はお手上げ状態。
かけつけたサムも説得できず、ついに新居にシモンを迎え入れる。
シモンの日常スケジュールは秒単位まで正確で、日変わり料理もいつも同じメニュー。
清掃会社で働き、レンタルビデオ店に寄って帰宅。
時間きっかりに夕食をとり、食後に映画を観る曜日も決まっている。
当然のように、サムの恋人は音をあげる。
必死になだめるサムだが、「僕に君が必要なように、弟には僕が必要だ」と言ってしまった。
恋人に去られて落ち込むサムを前に、シモンは「彼女が戻らないなら、他の女を探す」。
サムの好みを分析し、女性たちを片っ端からリサーチ。
候補者ファイルを渡されたサムは、「僕は全く違う相手に惹かれるんだ」と冷蔵庫のマグネットを使って説明する。
では、兄と正反対の女性を探さねば。
シモンが思い出したのは、交差点でぶつかった陽気なイェニファー(セシリア・フォルス)だ。
「兄さんに会って」と家まで押しかけたシモンは、彼女の友人たちとの酒盛りに参加する。
一方のサムは、帰ってこないシモンを探し回って、クタクタだ。
深夜帰宅のシモンに怒り、実家に戻ってしまう。
しょげるシモンだが、「任務は完了しなきゃ。磁石を近づければ、あとは物理学が解決する」と思いなおし、サムとイェニファーのデート計画を実行に移すが…。
「触らないで アスペルガーです」というバッジをつけたシモンだが、失恋した兄のために一生懸命だ。
ヒュー・グラントの映画をすべて観て、理想のデートプランを練るあたりもほほえましい。
社会民主主義的福祉国家と呼ばれるスウェーデンだが、障害のある人もそうでない人もともに生きる思想が、広く浸透していることが伝わってくる作品。
(アンドレアス・エーマン監督/2010年/スウェーデン/86分)
