CF077 『いい爺ライダー』

平均年齢76歳の町民たちが作った自治体合併騒動記
タイトルは1969年に公開された大ヒット作『イージー・ライダー』(デニス・ホッパー監督)にかけている。
ハーレー・ダビッドソンにまたがり、マリファナを吸うピーター・フォンダは、60年代の若者のあこがれで、不良、反体制の代名詞だった。
タイトルが面白いと予備知識なく観たので、出だしからびっくり。
登場するのは普通の人たちで、ぎこちなく、かつ懸命な歌と踊りが繰り広げられるのだ。
チラシを読むと「最高年齢88歳、合併した二つの町から町民350人」とあった。
北海道むかわ町(2006年に合併)の穂別地区と鵡川地区の町民たち(平均年齢76歳)で作った作品という。
それも第3作目で、2011年には第4作『赤い夕陽のジュリー』も公開されたという。すごいね。
舞台は、架空の町・山彦町。
農民が中心の高齢ライダー集団「神雷隊」は、隣の海彦町の漁師が中心の若者ライダー集団「ミライダー」と年1回、宿命の「決闘」をするのが楽しみ。
体力と判断力の衰えは悪知恵でカバーし、今年も勝った。
だが、山彦町は借金財政のうえ、地方交付税の削減が追い打ちをかけている。
町民説明会では、「平成の大合併」ブームに乗って海彦町と手を組み、補助金を得てやり繰りしようという話になる。
だが、「神雷隊」は絶対反対を叫び、バイクでなだれ込む。
リーダーの幸(コウ)は特攻隊で生き残り、復員すると家族は室蘭艦砲射撃(太平洋戦争末期のアメリカ海軍による攻撃)で亡くなっていた。
田んぼもグランドもゼロから整備してきたのに、町の名前が変わるのは「ふるさと」が奪われる危機だ。
地元の建設会社社長は町長や町議を巻き込み、損得を勘定。
だが、バスに乗り合わせた主婦たちは「合併したってどっちもお金ないんだから、なんも変わらんしょ」とほがらか。
面白かったのは町議会のシーン。
リアリティあふれる町議たちが、会派ごとに賛成・反対を歌い踊って主張する。
やがて、すったもんだのあげく、盆踊りの輪のなかで「もういいべさ」、「とにかく生き残ることだ」というつぶやきが広がっていく…。
介護保険の保険者(市区町村)には広域連合や一部事務組合もあるが、「平成の大合併」の影響もあり、1,663保険者(2006年度)から1,578保険者(2014年度)に減った。
期せずして、保険者の多様な事情に思いをはせた作品。
(伊藤好一監督/2008年/日本/54分)

投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ: