20世紀を眺望する冒険コメディ
スウェーデンの小さな町で、老人ホームに暮らすアラン(ロバート・グスタフソン)は、100歳の誕生日にスリッパのまま脱走した。
ホームのスタッフはバースディケーキに100本のろうそくを立て、地元マスコミの取材も来ているのに…。
ゆっくりバスターミナルにたどりつき、有り金で行けるところまでのバスチケットを買ったとき、行きあわせたパンク兄ちゃんにスーツケースの見張りを頼まれた。
でも、バスが来てしまい、あわてたアランはスーツケースを持ったまま乗り込んだ。
着いた場所は廃線になった無人駅。
駅舎に暮らすユリウス(イヴァル・ヴィクランデル)は70歳。
ふたりでアクアビット(アルコール度数40を超える北欧焼酎)を呑み、大いに盛り上がる。
ところが、スーツケースには、ギャングの闇資金がぎっしりつまっていた。
怒り狂って追ってきたパンク兄ちゃんを撃退したものの、失踪老人を探す警察と、現金を取り戻したいギャングの両方から追われることになってしまった。
アランとユリウスは逃げる途上、学問が趣味の気弱な青年・ベニー(ダヴィド・ヴィバーグ)、動物虐待に反対してサービスのゾウを連れ出したグニラ(ミア・シュリンゲル)と出会う。
4人と1頭の珍妙な逃走劇のなか、アランの過去がフラッシュバックする。
なんと、彼は子どものときから爆弾マニアで、精神病と診断され、当時の断種法にもとづき手術をされていた。
とはいえ、「人生はなるようにしかならない」がモットーの彼は、精神病院の仲間に誘われてスペイン人民戦線におもむき、嬉々として橋を爆破しまくる。
ひょんなことからフランコ将軍を助け、アメリカのトルーマン大統領と知り合い、原爆開発中のオッペンハイマーの元で働き、秘密情報を知っているとソ連(当時)にスカウトされ、スターリンの逆鱗に触れてシベリア送りになり…と荒唐無稽な人生を送ってきた。
もちろんフィクションで、歴史好きには気になる事実誤認もあるようだが、世界中の独裁者と爆弾につきあったアランの軌跡は、20世紀そのもの。
アラン役のロバート・グスタフソンの25歳から100歳までの演技も見応えがある。
福祉が充実しているといわれる北欧の映画には、高齢者施設から脱走するテーマが結構ある。
手厚いサービスがあってもなお、集団生活はイヤというのがよくわかる。
原作『窓から逃げた100歳老人』(西村書店)は800万部を越える世界的ベストセラー。
映画よりさらにスケールが広く、大いに笑って楽しめる。
(フェリックス・ハーングレン監督/2013年/スウェーデン/115分)
