CF079 『パーソナルソング』Personal Song

思い出の曲は記憶を呼び起こす
本作は、アメリカの認知症高齢者と音楽の関係を描くドキュメンタリー。
ある介護施設で、ひとりの認知症の女性が「私は90歳。若い頃のことは忘れてしまった。もう、90年もここにいるんだから」とつぶやく。
ダン・コーエンは「音楽を聴いて、思い出してみよう」とヘッドフォンをかけ、『聖者の行進』を聴かせた。
すると、彼女は「ルイ・アームストロングだわ。母に内緒でコンサートに行ったの」と顔を輝かせ、学生時代を語り、「こんなに話せるなんて!」と自分に驚く。
別の男性は6年間、椅子に座ってうつむいたまま。
熱心な信者だったことがわかり、ゴスペルを聴かせると、リズムに身体を揺すり、「よく踊りに行った」と陽気にしゃべりだす。
NPO組織「ミュージック&メモリー」を運営するダンは、元IT技術者で、認知症の高齢者を中心に、その人が好きな音楽(パーソナルソング)を収録したデジタル音楽プレイヤーとヘッドフォンを提供する活動をしている。
集団ではなく、ヘッドフォンでパーソナル、つまり個人的に、私的に聴くのがポイントだ。
ベネット監督は当初、「ミュージック&メモリー」ウェブサイトの動画撮影に関わった。
「施設には老人がひしめきあい、逃げ出したかった」が、若いころ、夢中になった曲に心を開いていく高齢者の姿に感動し、3年かけて本作を完成させた。
アリセプトを開発したピーター・デイヴィス博士は「認知症治療を長年研究しているが、音楽療法ほど効果的な方法は他にない」と評価する。
ミュージシャンは「病気や戦争でつらい思いをしても、音楽は苦しみを包み込んでくれる」と普遍的な価値を語る。
だが、ダンの活動は容易に広がらない。
「医師が月1000ドルする薬を処方しても誰も疑問を持たないが、40ドルのプレイヤーを与えるのは簡単じゃない。音楽を聴かせるのは医療行為じゃないからだ」。
転機は、誰かがウェブサイトの動画をユーチューブに投稿したことだった。
反響は大きく、カンパが増え、施設へのボランティア活動も広がった。
現在、650施設が音楽療法を取り入れているという。
人は胎児の時、心臓ができて鼓動を刻む時から音楽と深くつながっているという説明も興味深いが、なによりもパーソナルソングを聴くことで、認知症の人が周囲とのコミュニケーションを回復させるエピソードの数々に感銘を受ける。
(マイケル・ロサト=ベネット監督/2014年/アメリカ/78分)

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