ほのぼのした日常にひそむ苦いテーマ
福ちゃんこと福田辰男(大島美幸)は32歳の塗装職人で、レトロな安アパート「福福荘」に暮らしている。
昼間は演歌歌手志望など気のいい仲間たちと仕事に励み、帰宅すれば趣味の凧作りにいそしむ。
「福福荘」の住人は、孤独を癒すため大蛇を飼う馬渕(芹澤興人)、下着泥棒の過去がある精神障害の野々下(飯田あさと)など個性的な顔ぶれ。
面倒見の良い福ちゃんは、彼らのトラブルもうまく解決する人気者だ。
満ち足りた日々を送る福ちゃんの唯一の弱点は女性で、親友のシマッチ(荒川良々)がせっかくセットしたお見合いにも引きまくる。
そんなある日、カメラマン志望の杉浦千穂(水川あさみ)が訪ねて来た。
彼女は福ちゃんの中学時代の同級生で、初恋の相手だった。
しかし、幼い恋はいじめグループの演出で、千穂は福ちゃんに最も残酷な打撃を与え、女性恐怖症に陥れた張本人だった。
千穂は大人になった福ちゃんの笑顔に惹かれ、モデルを頼みたい。
中学時代のいじめを平謝りする千穂に、福ちゃんはさすがに渋い顔。
でも、懸命に頼む千穂を、美人でもあるし、受け入れる。
ファインダー越しに千穂にみつめられ、再び恋心がふくらむ。
仕事が手につかない福ちゃんを心配したシマッチは、千穂を呼び出し「変な顔を可愛いって上から目線で撮ってんだろ」と突っ込む。いい奴だね。
こんな調子で、世間的には不器用で、少しずれた善い人ばかりの日々がコミカルな会話とともに描かれ、ほのぼのした気分に浸ることができる作品だ。
主演の大島美幸は、ふっくらした体型そのままに包容力あふれる福ちゃんを演じる。
監督は「30歳を過ぎても女性と付き合ったことがない役を男性が演じたら生々しくなってしまう」と女性を起用したそうだ。
だが、ストーリーに練りこまれたいじめにセクハラ、雇用格差など、現代社会が抱える問題をいやでも考えせられる。
福ちゃんのようなパーソナル福祉に頼れる時代ではないが、思いやりと共感の大切さを呼び起こす。
(藤田容介監督/2014年/日本/111分)
