BF119 『沈黙法廷』

『沈黙法廷』
最初に登場するのは、点検商法の若者だ。
セールストークをつぶやきながら、リストアップされたターゲット宅にあがりこんだら、死体があった…。
高齢者詐欺の典型例からスタートする連続不審死事件のミステリ。
亡くなったのは、高齢の独身男性ばかり。
鍵を握るのは、死亡者宅に出入りしていたハウスキーパーの女性。
彼女は20歳で結婚したが、子どもは幼くして事故死。夫婦仲が悪くなり、ほどなく離婚。
家事代行サービス会社の派遣スタッフを経て、フリーで家事代行業をしていた。
介護保険未満の高齢者、それもひとり暮らしの男性で、そこそこの経済力があれば、訪問介護は当然、利用できないから、家事代行サービスを頼むことになる。
読んでびっくりしたのは、依頼者である高齢者本人をはじめ親族、警察もマスコミも、最初からセックスがらみ、後妻業もどきという発想から入ることだ。
ホームヘルパー研修すら受けていない場合、あるいは介護保険の指定サービスでない場合、ここまで偏見と好奇にさらされるのか、とげんなりもさせられる。
それが現実かと教えられても、学歴も経験も資格もなく、ささやかに生きる女性の過酷な境遇にため息が出る。
介護保険でもホームヘルパーの単独訪問の諸課題は隠ぺいされたままだが、それ以上に危うさをはらむ民間サービスを考えさせられた。
(佐々木譲著/新潮社/2100円+税)

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