BF129 『漱石の長襦袢』

BF129 『漱石の長襦袢』
著者は文豪・夏目漱石の長女・筆子の娘で、つまり「漱石の孫」だ。
漱石には7人も子どもがいたとは知らなかったが、ロンドン留学から帰国後、重いうつ病になり、子どもたちを虐待する父親であったことを初めて知った。
本書は、著者が母親から聞いた祖父の姿をていねいに描くエッセイ集。
漱石の死後、夏目家にとって「漱石の弟子」たちがどういう存在であったのかも、率直に厳しく指摘する。
そのあたりは読んでもらうとして、著者は寝たきりの母、つまり「漱石の娘」の介護を長くしたようだ。
「特に母が亡くなる三、四年前頃からは、母より先に私が逝くかもしれない、今私が倒れたらどうしよう、と真剣に悩んむほどに私は心身ともに消耗していた」。
エッセイストとして仕事があり外出しても、「その間も母のことが頭の片隅にこびりついて離れず気が気ではない」。
「精神的にも肉体的にも疲れ果ててようやく帰宅しても、留守番と交代した瞬間から夜もぐっすり眠ることのできない介護生活に私は引き戻されるのであった」。
母・筆子さんが亡くなったのは1989年とのことだから、まだ、介護保険がなかった頃だが、介護する家族の心痛は、今も昔も変わりないことを痛感させられた一節。
巻末の筆子さんによるエッセイ「夏目漱石の『猫』の娘」も思いがけない収穫。
(半藤末利子著/文春文庫/600円+税)

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