BF135 『腰痛放浪記 椅子がこわい』

BF135 『腰痛放浪記 椅子がこわい』
介護をめぐる相談だけでなく、身近な人でも腰痛を抱える人は多い。
厚生労働省のホームページにも「慢性疼痛対策」というコーナーがある。
さまざまな治療法を試し、痛みをなだめながら暮らす知人も少なからずいるので、本書を読んでみた。
1995年4月、著者は54歳になって、腰に違和感を持つようになった。
症状は進み、座るのは20~30分が限度、鈍痛はしぶとく続く。
人気作家だから、座りっぱなしの生活で、筋肉の「預金残高」がついえたのか。
熱心にプールに通ってみるが、筋肉はついても痛みは去らない。
友人、知人がつぎつぎと医療や治療の機関を紹介してくれる。
痛みを取りたい一心で、お金に糸目をつけない「ドクターズショッピング」の反復が克明に記録される。
本書でまず驚くのは、著者が痛みに苦しみ、「むなしいワンダリング」を繰り返しながらも、執筆や講演、選考委員などの仕事をこなし続けていることだ。
医療では、整形外科に放射線科、神経内科、眼科。治療では気功、マッサージ、カイロプラクチック、中国鍼、温熱療法…。
なんにしても、著者が非常にパワフルな人であることがわかる。
そしてまた、実に多くの人たちが腰痛に苦しんでいることに驚く。
同時に、回復という成功体験を持つ人は必ず自分の治療法を勧めることも、本人は親身なのだが、本書のように膨大な例を紹介されると、ちょっとあきれてしまう。
著者が診察を受けた医師たちも、実にさまざまな診断をする。
「疾病逃避」といって「本当は仕事をしたくないんじゃないか。しかし、その口実が見当たらないので、病気をつくっている。つまり病気に逃げ込んでいるのではないか」。ストレス性ではないか。鬱病なんですよ。尾てい骨が曲がっている。果ては、霊が憑いている…。
1996年1月、放浪の末、森田療法を実践する医師の「典型的な心身症ですね」という言葉にすがり、著者は熱海の病院に入院した。
本書後半は、患者と医師の闘争とも言うべき、この入院治療の詳細なレポートになっている。
原因不明の痛みへの不安について率直に語るとともに、ミステリ作家の力量だろうか、自らの苦しみと治療巡礼を相対化して教えてくれるのに感心した。
(夏樹静子著/新潮文庫/520円+税)

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