BF137 『伏流捜査』

BF137 『伏流捜査』
本書はいわゆる警察小説。
舞台は東京都を管轄する警視庁だが、殺人捜査などで活躍する捜査一課や知能犯との攻防戦を繰り返す捜査二課の刑事ものではない。
主人公の結城公一警部が所属するのは生活安全部で、風俗や「環境犯罪」をカバーする。
「環境犯罪」という言葉は初めて知ったが、援助交際や高齢者虐待、ごみ屋敷など、地味で日常的な事件を扱う部署なのだという。
社会福祉と密接な関係がある部署だが、本書の『稲荷の伝言』という中編では、舞台は東京都調布市郊外の特別養護老人ホームだ。
結城の先輩課長が入居している特養だが、ある日、先輩からほかの入所者が振り込め詐欺にあったようだと知らせを受ける。
偶然にも、結城の父親は認知症が悪化し、稲城市の有料老人ホームから退去を求められ、結城一家と同居しながら、同じ特養のデイサービスに通っている。
チームで内偵を進めてみると、高齢者虐待も発生しているようだ。
特養の待機者は317人、入居者の平均年齢は84歳、要介護度は平均3.3など、実にリアルな描写が続く。
介護スタッフのキャラクターにヒエラルキー、入居者の内緒話。
そして、施設では市の監査を前に、使途不明金がみつかって大わらわ。
振り込め詐欺は本当か、高齢者虐待の加害者は誰か。
そして、最終局面で、結城は悩む。
罪を告発するだけではすまない介護の現場、関わる人びとの多面性が描き出された作品。
なお、本書は『境界調査』、『聖域捜査』に続く短編シリーズ3作目。
『聖域捜査』には、世田谷区のごみ屋敷をとらえた『芥の家』、町田市が舞台の『散骨』、ショッピングセンターの駐車場での熱中症死をめぐる『晩夏の果実』など、高齢者問題をテーマとする短編が多くある。
著者は公務員出身とのことだが、ていねいな調査と、登場人物への平等な視線で、少子高齢社会のリアルに迫るサスペンスを描く。
(安東能明著/集英社文庫/620円+税)

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