BF138 『〈格差〉と〈階級〉の戦後史』

BF138 『〈格差〉と〈階級〉の戦後史』
介護保険の見直しの議論では近年、「給付と負担」のテーマが続く。
「給付」とは一般的にはサービスのことだが、介護保険料と税金でまかなわれ、低所得者や高額利用者への負担軽減の費用も含まれる。
一方、「負担」のほうは、介護保険料が所得段階別の設定になっているほか、利用料も「原則1割」から「一定以上の所得」は2割、「現役並み所得」は3割と変形してきている。
社会保障費が増加の一途をたどるなか、政府や省庁は、「給付抑制」と「負担増」に躍起だが、法人負担を減らし続け、「負担能力」を把握しないままの議論が続くので、ちまちまとした負担の引き上げに終始している。
だが、負担を引き上げて、被保険者、なかでも介護認定を受けた者たちは払いきれるのか?
電話相談では、利用者から負担増によるサービスの節約や、中止の事例が寄せられる。
介護家族は「今は親や配偶者のためになんとか払っているが、自分の時はどうなるだろう」という近未来への不安を抱えている。
社会福祉をめぐる諸問題は、実態調査をしないという非合理性に尽きるのではと思うなか、参考になる本はないかと探して読んだのが本書。
結論としては、「給付と負担」の対抗馬にはならない。
だが、「格差はけっして新しい問題ではない。いつの時代にも一貫して存在してきた」、「過去における結果の格差は、未来における機会の格差を生み出す」と指摘しつつ、「個人間格差」と「カテゴリー間の格差」について、敗戦から1950年まで、1950年代から2010年代まで10年単位で分析した作業は貴重だ。
農家の兼業化、高度経済成長期の膨大な階級間移動、1980年代からの格差の拡大など、これまでにも、他の専門家の指摘もあるが、「90年代以降、女性労働の非正規化がさらに進行し、また未婚化も進むことから、膨大な無配偶女性のワーキングプアが形成される」という指摘には言葉を失う。
1990年代に20代だった女性たちは現在、すでに50代。
「生涯現役社会」で70歳まで働くとしてもあと20年。
2019年簡易生命表の概況』では、「90歳まで生存する者の割合」(寿命中位数等生命表上の生存状況)は男性27%、女性51%なので、女性の半数は70歳でリタイヤしても、さらに20年は生きるという計算になる。
おまけに、「非正規雇用者に占める女性比率は、どの時期でも6割強となっている」という。
1990年代以降、「貧困層の増加は、主に女性高齢者で生じた」という指摘とあわせて考えれば、すでに高齢者には貧困女性が相当数、存在し、今後も増え続けるということだ。
貧困は健康を阻害し、精神面の問題を増やすというから、社会保障制度にとっては悪循環が進むことにもなる。
世界一の長寿を誇る日本の女性たちに、膨大な格差が存在するにもかかわらず、社会保障制度の議論のなかで、この重大なテーマが俎上にのぼることがないのはなぜなのだろう?
(橋本健二著/河出新書/1100円+税)

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