『デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える』
厚生労働省のホームページには、いつのまにか「科学的介護」というページがある。
同省老健局は2017年、「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」(鳥羽研二・座長)を設置した。
目的は「科学的に自立支援等の効果が裏付けられた介護サービスの方法論を確立、普及していくため」ことだ。
「科学的な自立支援等」とはなにか、具体的な説明はない。そもそも、介護における「科学」とはなにか不明だ。
しかし、2021年度の介護報酬改定で「科学的介護推進加算」が新設され、事業者が契約している利用者のデータ提出したらお金をつけることになった。
「方法論」ははっきりないが、ひとまず、介護保険の利用者の個人データをナショナル・データベース「科学的介護情報システム」(LIFE:Long-term care Information system For Evidence)に集める。
報酬が増えるならと、データ提出に励む事業者もいるし、手続きが煩雑だと悲鳴をあげているところもある。
気になるのは、データを提出した事業者に「フィードバック」があることだ。
例示されているのはリハビリテーションだけだが、リハビリ効果が低い利用者の数値を分析して、事業者を指導するという説明を読むと、いとも簡単に給付コントロールできる気配が濃厚だ。
菅政権時代、「デジタル社会」が唱えられ、デジタル関連法が成立し、デジタル庁が作られた。
「デジタル社会」と「科学的介護情報システム」はどんな関係なのだろうと考えていたところで、本書に出会った。
新型コロナウィルス感染症の流行で、オンライン会議ツールとして重宝しているZoomは、中国のサーバーを経由し、盗聴される可能性が高いため、各国で利用を控える動きが出ていうという。
動画共有アプリTikTokも、利用者の許可なく、顔写真や声紋など「生体識別情報」を収集しているという。
驚くのは、各国が警戒を強めるなか、日本政府が規制を考えていないどころか、デジタル庁に集中することになるデータは、アメリカや中国の企業にとって「宝の山」と呼ばれているという指摘だ。
「個人情報は1か所に大量に集められるほど、サーバー犯罪に弱くなるのだ」。
「科学的介護情報システム」が大いに心配だ。
デジタル庁は「予算、人材などを集約し、行政サービスのデジタル化を一元的に推進」する予算と権限を持つ「最強権力」機関になるそうだ。
おまけに、職員600人のうち200人は、民間企業の出向者で、公務員ではないのだという。
省庁や地方自治体などの政府機能をデジタル化する「デジタル・ガバメント実行計画」で、「政府共通プラットフォーム」を作るのはアマゾン・ウェプ・サービスだという。
第1章から、「デジタル社会」の「デジタル化は方法論にすぎない」、「税金を私物化する『官民癒着の構造』」なのだと著者は怒りを込めて断言する。
「国家戦略特区法」にもとづくデジタル都市計画「スーパーシティ構想」は、公共部門を企業に外注して自治体を解体し、社会保障費削減策はデジタル化とともに加速する。
人びとの安全を守るには、「行政のデジタル化」に対して、「データに対する権利は個人に帰属する」、「国民が自分のデータを、いつでも削除できる権利を持っている」ことだという。
「国民の個人情報を守るのは、その国の政府」であり、企業には責任がない。
スマートフォンやクレジットカードによる決済、給与のデジタル化などキャッシュレス化の怖さ、監視社会の安全性とサイバー犯罪が攻撃性を増す構造。
なかでも、第Ⅲ部「教育が狙われる」では、オンライン授業でタブレットを使うたびに個人情報が集積されると指摘する。
デジタル教科書による教員削減など「公教育」の商品化は、子どもたちの「未来を選択する権利」を奪うことだという渾身の訴えに感銘を受けた。
(堤未果著/NHK出版新書/880円+税)
