CF092 『ダブリンの時計職人』

CF092 『ダブリンの時計職人』
Parked
ホームレス・ライフから抜け出す希望
アイルランドの首都・ダブリンは、アイリッシュ海を望む。
真冬のある日、フレッド(コルム・ミーニイ)は寒風吹きつける海岸駐車場に車を停めた。
彼はイギリスで職を転々としていたが失業し、バブルが崩壊した生まれ故郷に戻ってきたのだ。
生家はとうの昔に他人の手に渡り、市役所では住所不定だと失業手当は出せないと拒まれ、マイカー暮らし。
公衆トイレで着替え、小さな植木鉢に水をやり、海をみつめて手帳に詩を書きつけ(アイルランドは詩人の国)、失意のなかでも日常を保とうとしている。
ある日、黄色い小さな車が駐車場にやって来た。
乗っていたのはドラッグ中毒の青年・カハル(コリン・モーガン)。
父親にうとまれて家出した彼は、借金取りに追いまわされていた。
最初は警戒していたフレッドだが、人なつこいカハルに誘われて、シャワーがわりにスポーツセンターのプールに出かける。
そこで、出会ったのがピアノ教師のジュールス(ミルカ・アフロス)。
なんと、フレッドは一目ぼれ。彼女はフィンランド人で、夫に先だたれ、喪失感を抱えていた。
カハルにせっつかれ、ジュールスの家を訪ねたフレッドは、かすかな希望を見出す。
そんなある日、ホームレスに食事サービスをしているボランティアが、シェルター(福祉住宅)に入居できるよう、フレッドの暮らしぶりを新聞記者に売り込むアイデアを持ってきた。
尻込みするフレッドに、カハルは「プライドは捨てて、世の中を見ろよ」と励ます。
だが、ある夜、カハルは借金取りに襲撃される。
なけなしのお金を出して助けたフレッドは、「ドラッグはやらないと約束しただろう」と怒り、カハルはいなくなってしまう…。
ゆるやかな物語のなかで、手先の器用なフレッドはカハルが家から持ち出した父親の腕時計を、ジュールスのアンティック時計を直していく。
不本意にもホームレスになってしまった彼を中心に、年齢も立場もかなり異なる3人の時間がふたたび動き出すような展開が美しい。
(ダラ・バーン監督/2010年/アイルランド・フィンランド/94分)

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