CF094 『アイリス・アプフェル! 94歳のニューヨーカー』
IRIS
生きている限りおしゃれをするパワー
どんな人にもおしゃれ心はあるものが、1921年生まれのアイリス・アプフェルのファッションにかけるエネルギーは超人的だ。
「ジャズの即興みたいに、ひらめきが大切なのよ」とブランド物から民族衣装まで実に多彩な服に、大粒のネックレスを幾重にも巻き、ブローチを付け、両腕には巨大なブレスレッドをいくつもはめ、自身をオブジェのように飾り立てる。
お世辞にもマネしたいとは思わないが、「ルールがあったら破る」、「組み合わせで個性が出るのよ」という彼女の言葉は魅力的だ。
1940年代、「女がはくものじゃない」と門前払いする店で粘り、女性で初めてジーンズを身につけたと胸を張るアイリスは、インテリア・デザインの世界で一世を風靡した。
夫のカールと設立した会社は、第二次世界大戦後の好景気の波に乗り、ホワイトハウスの内装をまかされるまでに成功。
夫婦で家具や工芸品、絵画などを買い付けるため世界中を飛び回り、個人的に集めた服やアクセサリーは膨大なコレクションになった。
会社を高値で売却し、悠々自適のアプフェル夫妻だったが、2005年に転機が訪れた。
メトロポリタン美術館でアイリスの服飾コレクションの企画展が開かれ、84歳にしてファッション界にデビューしたのだ。
ピンチヒッター的な企画のため十分な宣伝もなかったが、口コミで大評判となり、驚異的な動員数を記録した。
カメラはアイリスの90歳の誕生日から、多忙な毎日を追う。
広告モデルにテレビショッピングのアドバイザー、大学のビジネス講座講師など精力的に働く日々。
「年を取り身体が弱ると後ろ向きになる人が多いけど、私は落ち込むのがイヤなの」と旺盛にショッピング。
ニューヨーク市内に複数所有するアパートは、コレクションであふれかえっている。
とはいえ、仕事も私生活も共にしてきた仲良しのカール(100歳)は衰えが目立つし、アイリス自身も夜は眠れない。
だが、翌日になれば、また元気におしゃれをする。
「美人は年を取ったら何も残らない。私のように美人じゃない者は努力して個性を磨く。それで人生に味が出るの」という貫録たっぷりの発言に脱帽。
(アルバート・メイズルス監督/2014年/アメリカ/80分)
