CF099 『あなた、その川を渡らないで』
My Love, Don’t Cross That River
愛らしい超高齢カップル
本作は、韓国・ソウル市に隣接する江原道横城郡の古時里(コシリ)村に暮らす98歳の夫(チョ・ビョンマン)と89歳の妻(カン・ゲヨル)の暮らしを追ったドキュメンタリー。
なんといっても、結婚76年目という夫妻の韓服姿が可愛い。
鮮やかなブルーやピンクのペアルックで、いつも手をつないで歩く。
撮影を意識してかと思ったら、監督はテレビで『白髪の恋人たち』と紹介されたおしゃれなふたりを知り、取材を申し込んだのだという。
カメラは四季折々、小鳥のつがいのように寄りそう夫妻の姿を追う。
山菜を取り、柴を集め、飼い犬の妊娠を心配し、秋には枯葉、冬は雪、夏には川の水をかけあって無邪気にふざけあう。
遊びを仕掛けるのはいつも夫で、妻は文句を言いながら楽しんでいる。
古風な家はトイレが外にあり、夜は必ず連れ立って行く。
妻が用を足している間、闇夜の不安をなだめるために夫は唄う。
結婚したのは妻が14歳の時だった。
夫は恥ずかしがる妻を撫でながら眠り、本当の夫婦になったのは、彼女が17歳になってからという。
つつましい幸せに満ちた夫妻だが、12人の子どものうち6人を幼くして失った。
ふたりが6組の子ども用パジャマを買ったのは、孫のためではない。
先に死んだほうが、子どもたちに持っていくためだ(死者があの世に持参できるよう、衣服を燃やす習慣があるらしい)。
残る子どもたちは、正月や誕生日にはお祝いに集まるが、日常はふたりだけの世界。
だが、高齢の夫は咳が止まらなくなった。
医師に高齢のため薬は効かないと言われ、自宅で過ごすが、苦しむ時間が増えていく。
「一緒に逝けたらいいのにね」と妻は切実に願うが…。
美しい自然に囲まれ、まるでおとぎ話のような親愛に包まれた姿とともに、夫の介護から残された妻の嘆きまで、しっかりと見つめた作品。
(チン・モヨン監督/2014年/韓国/86分)
