CF106 『わたしは、ダニエル・ブレイク』

CF106 『わたしは、ダニエル・ブレイク』
I, Daniel Blake
尊厳と権利を阻むもの
ダニエル・ブレイク(デイブ・ジョーンズ)は、イギリスの工業都市・ニューカッスルで、大工として働いてきた。
精神を病んだ妻を看取り、亡くなったら楽になるかと思っていたが、「介護が人生になっていた」。
抜け殻のようになった59歳は、それでも仕事に励んでいた。
しかし、心臓発作を起こし、医師から仕事を止められた。
映画の冒頭は、ダニエルが休職中の「支援手当」を継続するため、面接調査を受けるシーンからはじまる。
行政委託されたアメリカ(!)の民間会社の調査員が聞くのは、「介助なしで50メートル歩けるか」、「目覚まし時計をセットできるか」といった質問だ。
うんざりして「早く仕事に戻りたいだけだ」と返したのが、調査員の心証を悪くして、支給停止になってしまう。
困って相談に行ったジョブセンターでは、「支援手当」の対象外なら、就労可能なので、「求職者手当」の申請を勧められる。
「なんてこった、堂々巡りだ」。
ここからがすごいが、申請はオンラインのみ。
照会の電話番号はネットで調べろと言われる。
マニュアル世代のダニエルは四苦八苦の末、隣家の若者に助けてもらう。
倉庫の時間給で働く彼は、「役所はとことんみじめにさせて、申請をあきらめさせるのさ」。
ある日、ジョブセンターで、ダニエルはケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)に出会う。
2人の子どもを抱えた彼女は、ロンドンから追い出され、400キロも離れたニューカッスルに公費提供された家で、再出発しようとしていた。
ダニエルは、家の手入れを手伝い、母子を励ます。
だが、フードバンクで食料をもらう暮らしに、ケイティは切羽詰まっていた。
一方のダニエルは、セミナー受講を義務づけられ、求職活動に証明を求められ、抗議した挙句、違反審査を宣言される。
給付は4週間停止だが、求職活動と面接は続けなければならない。
「茶番だ!」と切れた彼は、ジョブセンターの外壁にスプレーで抗議文を大書きし、道行く人びとから拍手喝さいを浴びるが…。
イギリスの失業者対策が、困っている人をさらに追い込む構造に驚くとともに、日本だってどうだろうと怯えさせられる作品。
(ケン・ローチ監督/2016年/イギリス・フランス・ベルギー/100分)

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