CF107 『午後8時の訪問者』

CF107 『午後8時の訪問者』
La fille inconnue
責任を問われない失敗とのつきあい方
舞台はベルギーの工業都市リエージュ。
医師のジェニー(アデル・エネル)は、高速道路脇の小さな診療所で、研修医のジュリアン(オリビエ・ボノー)と診察をしていた。
待合室で少年がてんかん発作を起こしたのに、ジュリアンは棒立ちになったままだった。
診察後、ジェニーは事務処理をしながら、苛立ちをぶつけた。
その時、インターホンが鳴った。
「急患かも」とドアを開けようとするジュリアンを、「1時間も遅いし、急患ならもっと鳴らす」と押しとどめた。
彼女は難関を突破し、医療センターに転職することが決まっていて、その夜は歓迎会もあったのだ。
翌朝、ジェニーは刑事の訪問を受けた。
診療所の近くの川岸で、身元不明の少女の遺体が見つかったという。
防犯カメラには、アフリカ系の少女が診療所のドアにとりすがる姿が記録されていた。
映像を見たジェニーは、ぽろぽろと涙をこぼし、「ドアを開けていれば、助かった」と後悔にさいなまれる。
遺体がみつかった場所を見に行ったあと、ジュリアンのアパートを訪ね、「私もドアを開けたかったのに、あなたとの力関係を示したかった」と告白して、謝った。
診療所の所長は入院中で、後任を探すのに苦労していた。
ジェニーは所長と語りあうなかで、医療センターを断り、診療所の仕事を引き継ぐことを決意する。
診療所は移民や高齢者など保険診療の患者がほんどで、多様な困難を抱えている。
医師ひとりで運営し、暴力に立ち向かうジェニーの毅然とした姿や、往診の患者宅のセキュリティの厳しさも興味深い。
ジェニーはスマートフォンに少女の写真を入れ、診察の合間に、名前を知らないかと人々に聞いてまわる。
家族に知られることもなく、市営墓地の無縁塚に埋葬されるのはあんまりだ…。
彼女の行動は患者や街の人たちに波紋を呼び、衰退する工業都市の荒涼とした冬景色のなか、意外なサスペンスが展開されていく。
私たちはさまざまな局面で、時間切れや多忙を理由に人を拒むことがある。
その行為が引き起こした予想もしなかった、あるいは予期できたかもしれない結果に対して、どのようにふるまうべきかを考えさせられる作品。
(ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ監督/2016年/ベルギー・フランス/2016年)

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