CF165 『選ばなかったみち』
The Roads Not Taken
父と娘のニューヨーク24時間
舞台はニューヨーク。
とはいえ、大都市の景観はなく、窓のすぐそばを電車がひっきりなしに行きかう質素なアパートの一室だ。
レオ(ハビエル・バルデム)は、車のクラクションなど騒音が流れ込む部屋のベッドで、朝日を浴びながら、ぼんやりしている。
彼はメキシコ出身の作家だが、初老のいま、認知症になり、過去の時間を漂っている。
娘のモリー(エル・ファニング)は20代で、フリーのジャーナリスト。
新しい仕事の打ち合わせの前に、父親を歯医者と眼科に連れていこうとやってきた。
状況が理解できないレオをなんとか連れ出したものの、外界に不安を抱く父親は素直に従ってくれない。
つぎつぎと起こる小さなトラブルに対応しているうちに、モリーは打ち合わせに行く時間を逃してしまった。
トラブルのさなかにも、レオは記憶の世界をさまよう。
故郷のメキシコでは妻のドロレス(サルマ・ハエック)と言い争っている。
ひとり息子が事故で死んでしまい、死者の魂が戻ると言われる「死者の日」に、レオは墓参りに出かけるのを嫌がったのだ。
あるいは、ニューヨークにやってきて作家になったが、スランプに陥る。
二番目の妻とモリーを残して、逃げるようにギリシアに出かけた。
海辺のレストランで、若いドイツの娘たちに声をかけ、執筆中の小説の結末を語り、感想を求めてみた。
レオの人生は、結婚生活、あるいは家族から逃げ出すことが多かったみたいだ。
モリーの母はすでに彼を見限って再婚し、貧乏暮らしの元夫に冷たい。
しかし、娘は、不在が多かった父親に、いろいろなことを聞いてみたい。
だが、語りかけても、父親は過去をさまよっていて、娘の自分をほとんど認識してくれない。
父親のために丸一日を費やし、おまけに狙っていた仕事もとれなかったモリーは、父親のひとり暮らしに限界を感じる。
施設に入ってもらうしかないだろうか…。
父親が選んだ過去、娘が選ぶかも知れない未来が、スタイリッシュな映像とともに交錯する。
(サリー・ポッター監督/2020年/イギリス、アメリカ/86分)
