大学の経済学部を出た中津草介は就職難で、ホームヘルパー2級の資格をとり、「選択の余地なく」特別養護老人ホームで働いていた。ある日、疲れてへとへとになり、蓮見さんを車いすから放り出してしまった。
認知症の蓮見さんは一命を取り留め、嘱託医師やホームは事故扱いにしたけれど、草介は2年あまり務めたホームを辞めた。6日後に蓮見さんは亡くなった。
アパートでごろごろしていたら、市の公社に勤める”ケア・マネジャー”の重光雅美さんが「81歳の男性で、持ち家で独り住まい。車椅子だけど、認知症はなし。トイレは自分で出来て、お風呂は浴槽の出入りに介助があればあとは自分で出来る。洗濯機は全自動。通いでいい。月25万」という仕事を持ってきた。
依頼主の吉崎征次郎さんは、電動車イスを操り、デリバリーの食事を頼んだりとずいぶん豪勢だ。1週間ほどたち、吉崎さんは草介にひとりで京都に行き、六波羅蜜寺の空也上人立像を観てくるよう頼んできた。
抵抗し、いぶかしがりながら京都に出かけた草介は、係の人に言われた通り、しゃがんで平安時代のお坊さんの像を見上げた…。
介護の仕事に挫折した20代、ケアマネジャーとして走り回る40代、妻に先立たれた小金持ちの80代――現代日本のどこにでもありそうな組み合わせ。3人の現実的な会話と夢見るような想いが交錯するのが魅力の作品。
それにしても、介護職とケアマネジャーが中心人物という小説は初めて読んだ。
(山田太一著/朝日新聞出版/1260円)
BF042 『空也上人がいた』
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