BF044 『看護崩壊 病院から看護師が消えてゆく』

 2011年の改正介護保険法では財源確保が不透明なまま、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、複合型サービスというふたつの新サービスが創設された。
 どちらも訪問看護師の在宅派遣を強化するものだが、そんなに訪問看護師はいるのか?という疑問があって、本書を読んでみた。

 

 全国の就労看護職(保健師、助産師、看護師、准看護師)は2009年時点で約143万人。毎年約4万6千人が養成されるが、全体で10万人程度が離職し、純増は1万3000人にとどまるそうだ。免許を持ちながら看護職として働いていない「潜在看護師」は約55万人にのぼるという。
 少子高齢化のなかで2025年には看護職が200万人必要という試算もあるが、高齢者の手術件数が増えるなか、退院後に面倒をみることができる看護師が増えないなか、患者と家族に負担がかかる。訪問看護の利用者には特別養護老人ホームなどの入所待ち高齢者が多く、待機中に死亡する例も多いそうだ。

 看護師は24時間365日、交代制勤務で働くが、実態調査では離職したいと思っている人が8割で、理由のベストスリーは①人手不足で仕事がきつい、②賃金が安い、③思うように休暇が取れない。離職した理由は、①妊娠・出産、②子育て・家事、③結婚となっている。そして、「潜在看護師」が職場復帰しない最大の障害は夜勤。

 訪問看護師のインタビューでは、深夜のオンコールに女性ひとりで訪問する危険性、患者の医療依存度(呼吸器、胃ろうなど)の高まりといった負担のほか、病院勤務より低い賃金が人材難となっている現状が明らかになる。

 訪問看護ステーションで働く看護職は2009年で約3万人。「最期は在宅」は理想だが、受け皿となる中小病院や地域、家庭、最終的に在宅医療を担う訪問看護の体制は「あまりにももろい」と指摘する。また、「胃ろうがあれば福祉施設から入所を断られることが多いのに、きちんと病院と家族は話し合ったのだろうか」という看護師の疑問も紹介される。

 看護職や介護職は公職として、少なくとも職種別賃金などの最低基準を高く設け、報酬改定による人件費削減から守るべきではないかと問題提起する一冊。
(小林美希著/アスキー新書/762円)


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