戦後私小説は男性作家の「望まない妊娠」との遭遇がテーマ、と喝破したビュー作『妊娠小説』(ちくま文庫)以来、歯切れのよい書評を続けてきた文芸評論家の一冊。
本書では2006~2010年にかけて、政治から冤罪、検察、官僚、アメリカ大統領選、歴史認識から若者論、団塊論など世代もの、渡辺淳一に「品格」シリーズ、『蟹工船』ブーム、リーマンショック、日本地図帳、鉄道本と硬軟とりまぜた膨大なテーマで、新刊本を比較、検討してみせてくれる。
「格差社会ブーム」では、『日本の経済格差』(橘木俊詔著・岩波新書・1998年)に端を発し、『機会不平等』(斎藤貴男著・文藝春秋・2000年)を経て、『年収300万円時代を生き抜く経済学』(森永卓郎著・光文社・2003年)あたりから”粗雑”になったと分析。『日本の不平等』(大竹文雄著・日本経済新聞社・2005年)に代表される”格差は見かけ”論には、「『格差はない』と証明するために、「分析に血道を上げる経済学者の気が知れない」とばっさり。
「シングル女性の老後をめぐる楽観論と悲観論」では、上野千鶴子(『おひとりさまの老後』法研)と香山リカ(『老後がこわい』講談社現代新書)を比べる。香山が「住まい、病気&介護、死というシングル女性の三大心配事」を悲観的に考えるのに対し、「シニア負け犬」の上野の極端な楽観主義を指摘しながら、「『負け犬』とは経済的には女性の中の『勝ち組』であることを忘れてはいけない」と戒める。
(斎藤美奈子著/筑摩書房/1680円)
BF045 『月夜にランタン』
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