福岡市の「宅老所よりあい」は、お寺の茶室からスタートした。20年がたった今、宅老所のほか、認知症デイサービス、グループホームなども運営している。
本書は「よりあい」が利用者に最期まで寄りそった事例を紹介しながら、「自然な老いの先にある死」への取り組みを教えてくれる。
誤嚥性肺炎で入退院を繰り返すノブヲさんは、四六時中の点滴で体中に水がたまった。「よりあい」に連れて帰りたいと主治医や婦長にかけあっても、「お宅は医療機関ではない」とけんもほろろ。手を尽くして親族を探しあて、退院の同意を得てようやく戻ることができた。
家族の「長生きしてほしい」という願いで、胃ろうになったマツエさん。流し込まれる「栄養という液体」にうめき声をあげた。みんなつらい思いをしていたが、プリンを口から食べることができた。以降、スタッフと家族で交代しながら「最後まで口から食べる」ことができた。
大腸がんで「長くて半年」と宣告された寿さん。人工肛門(ストマ)を断ってなお、6年も永らえた。医者の息子は延命を望まず、「よりあい」スタッフとともに寿さんの「自然な身体の状態」を見守った。
90代の正男さんは気管切開と胃ろうの延命治療を施され、2週間後に退院を勧告された。ケア付き有料老人ホームに移ったが、心肺停止状態になって、系列病院からさらに別の病院で亡くなった。
余命1週間と言われた千世子さんは、「よりあい」に戻り、週1回は帰宅して夫・福市さんとふたりで過ごす生活を4年間続けた。ところが、92歳の福市さんが肺炎で入院、気管切開を提案された。担当医は決断に苦しむ娘に向かって、「そんなふうに悩む家族はいません! あんたは自分の家族を殺す気ですか!」と責めた…。
認知症の人と痛みの不思議な関係、医療への期待を最後まで捨てきれない家族の思い、「老衰死」を認めず点滴、胃ろうを当然のように施す終末期医療への不信、「楽に死なせてあげたい」という思いを後押ししてくれる医師の少なさ、などを率直に綴りながら、多様な関係と状況のなかで本人と家族の支援を考えるのが「私たちの仕事」なのだと語る。
(下村恵美子著/雲母書房/1680円)
BF046 『宅老所よりあいの仕事 生と死をつなぐケア』
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