栗本薫という名で『グインサーガ』シリーズ(早川文庫)でも知られる著者は、2009年5月に亡くなった。
本書は最初、「下部胆管癌」と宣告されて入院、手術した日々を退院後の2008年1月17日から2月17日にかけて執筆されたもの。
17年前に乳がんの手術を経験済みだったが、まず、朝からたくさんの検査があるのに面食らったと言う。悩ましかったのは「点滴する人の技術」で、痛かったり、点滴の液が漏れたり…。絆創膏の貼り方ひとつでも、看護師さんのほうがはるかに頼りになったそう。
入院中も『グインサーガ』(第130巻で未完となる)を執筆し、ソルジェニーツィンの『ガン病棟』(新潮文庫)を読む元気さだったが、手術をして、絶食状態からおもゆ、葛湯、すまし汁と「食事復活訓練」を受けながら、辰巳芳子の『あなたのために いのちのスープ』( 文化出版局)を想うところが印象的だった。
病院食を調理する人たちは頑張っていると思うのだが、「集団のために作られた食事」には限度があると言う。「あんな素晴らしいダシのスープを飲んでみたいなあ」という一文は、特別個室に入ることができても、ていねいに調理された食事への渇望を感じさせられた(辰巳芳子は『スープの手ほどき和の部』、『スープの手ほどき 洋の部』(文春新書)を出しており、ハンディタイプで使いやすい)。
退院後、味噌汁も煮物もみんなダシをひいて作るようになったそうだが、ガンになって「生きていることが、とても芳醇な、色濃い、めまいのするほど素晴らしいことになった」と大胆に肯定する一冊。
(中島梓著/ポプラ文庫/567円)
BF056 『ガン病棟のピーターラビット』
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