帯に「断食死の記録」とあるが、正確には「断食死未遂の記録」。
著者は1929年生まれのミステリ作家。
妻に逃げられ、ひとり暮らし。
バリバリ仕事をして、人生を楽しみ、もはや思い残すことはない。
82歳2ヵ月で性欲の衰えも自覚したし、地元の特別養護老人ホームは「強制収容所以下」だった。
ひとり息子は妻の母が認知症になり、10年近く介護している。
自分が90歳まで生きたとしたら「息子夫婦にどれだけ迷惑をかけるとになるか」とも憂える。
83歳で人生を終わらせるための”断食安楽死”の実行を決意。
本書では2011年2月10日の断食準備から日記を紹介。
著者の「断食ルール」で面白いのは、水のみで食物は一切口にしないが、医師に処方された8種類の薬だけは飲むところ。
理由は、実は前年11月にも断食を実行しようとして、利尿剤を飲まなかったため、心不全発作を起こし、入院騒ぎになったからという。
だが、空腹の服薬で胃の痛みが激しくなり、38日目にしてギブアップ。
ところが、2011年4月22日、3度目の挑戦に入る。
しかし、「胃潰瘍と断食は両立しないのだ」で、9日目で挫折。
ところが、また5月に4度目の断食を再開。
こうなると豊かに暮らす高齢者のヒマつぶしとしか思えないが、著者が計画準備で苦労したのは、自宅に出入りするお手伝いさんや秘書が「保護責任者」に該当し、断食死を見過ごせば「自殺幇助」または「保護責任者遺棄」という刑法に抵触するかも知れないことだったという。
著者は”断食安楽死”の実行にあたって彼女たちを解雇したそうだが、入念な記録を読んでいると、これだけ自己愛が強くては死ねないのでは、とも思う。
このエネルギーを、どこか別の場所で発現できないものだろうか?
(木谷恭介著/幻冬舎新書/882円)
