BF064 『人生を狂わせずに親の「老い」とつき合う』

 精神科医の著者は、介護うつ10万人、介護離職年間15万人という現実のなかで、”介護崩壊”は目前と警鐘を鳴らす。それは「医療よりはるかに激しい」。

 唯一の解決策は、特別養護老人ホーム(特養)など介護施設を充実させることだという。
 戦後はまだ高齢者は少なく、医療財政も余裕があり、実質的な施設介護は病院が担ってきた。

 しかし、この24年間に高齢者は倍増した。いまはまだ団塊の世代が介護しているので、兄弟姉妹に負担を分散することが「ヘッジになっている」。

 一方、国は社会的入院だけを削り、介護施設を増やそうという気配はない。
 介護が必要になるのは80代後半で、人口推計で考えれば「本格介護突入」のタイムリミットはあと5年。少子化が進むなか、在宅介護の肉体的・精神的・金銭的負担はひとりかふたりの子どもにのしかかり、介護休暇は焼け石に水で、「逃げ場」はない。「介護の人手不足」は年金問題より深刻だと指摘する。
 そんな状況では、「無理な在宅介護でボロボロになるより、比較的低料金で入居金も要らない特別養護老人ホームに親を入居させるほうが絶対にいい」。入所待ちで困っている人が多いなか、個室化には疑問があり、「介護の質の高さ」さえ担保でればいいのではないかとも問う。
 だが、国民から「公の施設で看てもらいたい」という声が上がらない。その理由のひとつは、「在宅介護は日本の美風」という伝説。

 だが、1950年代まで日本は平均寿命50歳未満という短命国で、そんなシチュエーションはほとんどなかった。「高齢者を死なせない医療」、「手厚すぎる医療」が短命国をいきなり長命国にし、点滴や胃ろうなど医療技術の進歩が「寝たきりになって死なない」高齢者を増やした。
 だから、「介護する嫁」「介護する娘」は、最近になって登場したモデル。「施設で死ぬのはかわいそう」という偏見は、中高年女性や老老介護の高齢者の負担をさらに増やす危険がある。「自分で看る気がないのか?」といわれれば、「在宅介護地獄」に落ちるしかない。一方、国や自治体は「介護財政をパンクさせないというお題目」で、在宅介護重視政策をとり続ける。
 「要介護人口を減らそう」といっても、85歳以上の4割は「自然な老化現象」で「ボケる」し、老化を遅らせることはできても、老化そのものを止める方法はない。
 「介護崩壊」を阻止するには、特養を100万床に増やし、介護従事者50万人確保のために人件費を年間500万円にすべきだという。実現には9兆円超かかるが、すでに75歳以上の高齢者医療費は約13兆円、医療費全体の35%を占めている。高額医療費を特養にまわしたほうが、雇用創出につながり、現役世代の労働力を大量に介護にまわすこともなく、国民不安を解消することができる。

 国家予算をどこに使うべきか、本当に真剣に考えなければいけない。500万人の要介護者、1000万人超の家族が圧力団体となり、介護政策を変えるべきと主張する。
(和田秀樹著/講談社+α新書/920円)


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ: