BF067 『弱者99%社会 日本復興のための生活保障』

BF067 『弱者99%社会 日本復興のための生活保障』
東日本大震災の被災地域は、もともと雇用と経済に不安定な部分があり、医療・介護・保健サービスも心もとない状況にあった。震災からの復興を困難にしているのも、社会が内包していた脆弱さがあるという。日本社会が急速に脆弱になったのはなぜか、本書はBSフジ「プライムニュース」の連続企画による、1.経済、2.雇用、3.コミュニティ、4.子育て、5.財源、6.政治の6テーマで、専門家や政治家と対談した内容をまとめたもの。
高齢者関連の話題を取りあげると、「経済」では医療・介護分野は社会保険に支えられる側面と産業的側面の両面があり、「社会保障の充実を経済成長のバネに」(京極高宣・社会福祉法人浴風会理事長)、「消費者ニーズに応える生産性の向上が、介護職の賃金を上げ、定着率を改善させることができる」(吉川洋・東京大学大学院教授)、「民間事業者は上乗せ横出し的なサービスで市場を膨らませればいい」(宮本太郎・北海道大学大学院教授)といった意見がある。
「雇用」では「現役世代をどう支えるか」がテーマで、「『転勤を命じられて介護を理由に拒否した社会が解雇されるのはやむなし』という裁判所の判断が出ている」「働く場所を選べない日本のメンバーシップ的雇用の過酷さがうかがえる」(濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構研究員)、「介護を理由に仕事を辞める人は年間約10数万人いるが、その多くが女性。女性の就業率を上げようにも、今はあまりにも〈家庭〉にしばられすぎている」「保育や介護に関する〈福祉〉を充実することで、〈職場〉〈家庭〉〈福祉〉のバランスを組み替えることが必要」「家族の高齢化や低所得化で身内の助けを得られない人が増えているので、社会的サービスの必要性は増している」(湯浅誠・反貧困ネットワーク事務局長)という指摘がある。
「財源」では、「生活保護世帯の半分は高齢者ですから、高齢者に対しても年金が生活保障の役割を果たしていない」(土居丈朗・慶応義塾大学教授)、「日本は、高齢世代の方が現役世代より所得格差が大きいという面でも、ОECD諸国のなかで珍しい国」「2000年くらいから社会保険料負担の総額は、国税収入の総額を超えている。日本で重いのは、税金ではなく社会保険料負担」(大沢真理・東京大学教授)、「介護は高齢者向けの支出ですが、きちんと使われれば、介護の負担を免れて仕事ができるようになる現役世代の人も多い」(宮本)といった分析がある。
編者は雇用と社会保障の連携を「生活保障」と呼び、「全員参加型社会」、「社会保障と経済の相乗的発展」、「つながりの再構築」、「次世代育成」をポイントとする。税負担が増えるにしても、支払った税や社会保険料が生活を支えるものとして、着実に還ってくることを考える。
(宮本太郎編/幻冬舎新書/798円)

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