BF075 『K』

著者は小説家で詩人。
配偶者は福井桂子という詩人で、、みずからを「マルK」と称したという。
本書では1959年に著者がKと知り合い、2007年にKが亡くなるまでの47年間を綴っている。
2度目のデートで、Kは風呂包みを持って著者の貸家にやって来て、そのまま住みついた。
数日後、著者が風呂をわかしてくれと頼んだら、Kは怒って家出した。
結婚通知を出した翌月、著者が給料を渡したら、Kはもらったものと思い、すべて使ってしまった。
詩作に率直な感想を述べたら、Kはにらみつけた。
そして、「貧乏夫婦」に娘が誕生し、Kは子育てに夢中になった。
公団アパートに移り、著者が生活のために本格的に小説を書くようになった。
Kは著者が小説を書くことに反対していたが、学生下宿を探してきて、そこで仕事をしろと言った。
著者は「自由感を得て」、その自由を確保するため、原稿料はすべてKの銀行口座に振り込んだ。
夫婦の別居生活は、著者が1994年に心筋梗塞で入院治療を受けてもなお、続いた。
ところが、Kは67歳でがんを発症したとき、著者に病院への同行を求めた。
摘出手術を受け、再手術をし、放射線治療に抗がん剤治療を受け、漢方薬にすがり、モルヒネを投与され、そして「ぼくらの不規則な夫婦生活が終わった」。
「わかっていることは、わが人生における中核のごときものが、とうとうこれで消えた、というしみじみとした気分である」という。
多様な夫婦関係のひとつのありかたを端正な文章でまとめた一冊。
(三木卓著/講談社/1575円)

投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ: