BF079 『ヒーローを待っていても世界は変わらない』

「反貧困ネットワーク」の活動を続ける著者は、民主党政権に誘われ、2009年10月から2012年3月まで2度の内閣府参与を経験した。
そのなかで、民間活動は「内容は濃いが範囲は狭い」のに対し、行政や政策は「広く薄く」が特徴と実感。
「抜け落ちるのは、誰が反対意見と調整するのか、というコスト負担の視点」であり、「調整責任と決定権限はセット」だ指摘する。
仕事や生活に追われて余裕のない人が増え、「最低限度の生活」しか保障していない生活保護を”既得権益”と呼ぶのは「弱く見える者を排除していく社会」であり、さらに社会全体に停滞感や閉塞感が広がるという危機感がある。
1億2000万人の「民意」には自分と異なる意見がはるかに多いが、「見ず知らずの他人」で構成される社会で、自分とほかの人に”意識の距離”があるのは当然、自覚すべきこと。
「最善を求めつつ、同じくらいの熱心さで最悪を回避する努力」が必要という。
民主主義は疲れるが、私たちは主権者から降りられない。
「面倒くさくて、うんざりする」民主的な合意形成に、覚悟を決めなければならない。
制度が追いつかなければ、「誰か決めてくれ」とヒーローを求めるのではなく、自分たちで空間(場)と時間を作らなければならない。
作れない人には寄りそわなければならない。
すでにこじれたコミュニティでは、身近な人との関係の結びなおしが必要だ。
“無縁の縁づくり”の積み重ねが社会を豊かにすると説く。
巻末には「内閣府参与辞職にともなう経緯説明と意見表明、今後」(2010年3月5日)、「内閣府参与辞任について」(2012年3月7日)を全文掲載。
民間活動から政権に関わった苦労がしのぱれる。
(湯浅誠著/朝日新聞出版/1365円)

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