BF080 『認知症 「不可解な行動」には理由(ワケ)がある』

老年行動学が専門の著者自身、小学校時代に同居していた祖母が認知症になり、不安のなかで心もとなく生きていた姿の記憶がある。
認知症とはあくまでも症状であり、認知症という病気があるわけではない。
だが、老化は早く進行し、個人差はあるが、余命は若年性認知症で7年程度、高齢者の認知症で10~15年程度と言われている。
そして、認知症には、アルツハイマー病であれば、徘徊という「個人における認知症」(脳機能の異常)、家族が止めようとしても振り切って外出してしまう「周囲の人々との関係における認知症」、本人は若い頃に戻り故郷に帰ろうとしているという「人生における認知症」の3つの観点があるという。
認知とは「知的な情報処理の過程」をさし、知能には20代がピークとなる暗記するなど「流動知能」と、経験の蓄積によって80歳、90歳になっても高めることができる洞察力やコミュニケーション力などの「結晶知能」のふたつがある。
「脳の性能が低下して流動知能が衰えても」、認知症の人が語る言葉が心を打つのは、「結晶知能の輝きが心の奥に残っている」からなのだという。
本書では認知症の診断方法を紹介するとともに、15事例にもとづき多様な症状を解説し、対応方法をアドバイス。
認知症の診断は方法がどうであれ、本人と家族の心のケアをすることが大切だ。
 
家族も大変だが、いちばん大変なのは認知症になった本人という共感がなければ、思いやりの気持ちは生まれない。
 だが、介護とは悲惨なことで、他人はその現実から目を背けるために、介護する人を褒めて、美談に仕立て、自分はいい気持ちになって去っていく。
家族が介護するのがいいことだというのは「家族介護の神話」であり、ケアがコントロール(支配)に変わることを防ぐためにも、親族や介護保険サービス、助け合いのNPОなど「介護の関係に他者を入れる」ことが重要と説く。
「認知症を特別なこととせず、どうすればよりよく、認知症とともに生きていくことができるかを、私は考えたいのです」という著者の誠実な姿勢がいきわたった一冊。
(佐藤眞一著/ソフトバンク新書/798円)

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